昇降格ルールの変更とCovid-19 -英国編-


Covid-19パンデミックの影響により中断していたプレミアリーグが再開し、リバプールFCが悲願の優勝を遂げた英国サッカーですが、下部のリーグでは法的な問題が発生していました。

英国サッカーは、英国サッカー協会”The Football Association”(The FA)の下に、プレミアリーグを頂点とする7階層で構成され、各階層間は昇降格システムが採用されています。”National League System”(NSL)と言われています。

The FAのCouncil(評議会)は、2020年4月9日に、「NSLの3〜7の階層について直ちにシーズンを終了し、今シーズンの階層間の昇降格要件を削除し、かつすべての結果を抹消する」旨決定しました。

この決定に異義を唱えたのが、3階層にある4つのディビジョンのうちNorthern Premier League(NPL)に属するクラブチーム”South Shields FC”でした。

このクラブは、2019/2020シーズンに予定されていた42試合中33試合を消化し、勝ち点69でした。2位のチームは勝ち点57で残り試合数も少なく、2階層のリーグへの昇格が目前にありました。
クラブのオーナーもクラブに相当投資をしていたという事情もあり、The FAの決定に納得がいかなったようです。

クラブは、The FA Councilの決定は無効であり、2階層のリーグへ昇格できる権利を有することの確認を求めて、The FAルールで定める仲裁(Rule K Arbitration)に訴えました。

クラブが主張する無効理由は次のとおりです。

  1. The FAルール上、Councilにそうした決定をする権限はない
  2. ルール上要請される要請される”協議”を経ていない
  3. この決定はクラブが獲得した昇格の権利を不当に奪うものである

意思決定の流れを見ていくと、関連するリーグ、それらリーグの属する階層を統括する委員会、The FAの理事会を経てCouncil決定に至っています。

当初より、次の3つのオプションが検討されたいたようです。

  1. シーズンを一時中断して後日再開する(中断オプション)
  2. シーズンを終了して最終順位を決めて昇降格させる(終了オプション)
  3. シーズンを無効として昇降格要件をなくし、かつ全ての結果を抹消する(無効オプション)

事実認定を見ると、段階を経て検討しており、リーグやクラブの意見も聴いていたことが分かります。

The FAのCouncilに諮られた際は、この議案の資料は300頁超でした。

具体的には、3つのオプションの具体的な内容、各下部組織の意思決定にかかる議事録(関連する委員会の意見書含む)、関連するリーグすべての順位表(終了オプション関連)、関連するクラブ及び人物の意見書、です。

これらは会議当日に配布されたのではなく、各Councilメンバーが検討のうえ会議に臨むことができるよう、1週間前に配布されていました。

Council会議は、ビデオ会議方式で実施され、4月7日から9日の3日及び、最終的に投票で、95人中90人が無効オプションに賛成し、Councilの決定となりました。

こうした決定にいたいる意思決定等事実関係を前提に、仲裁パネルは、各争点について判断しています。

争点a.について

The FAの定款上、Councilの権限がとして次のようなことが定められています。

(a) to manage all matters relating to: …

(ii) the control and management of the National League System and the leagues beneath the National League System;

(d) to make or alter such regulations as are deemed necessary to provide for matters arising from or to implement the Rules in so far as any such regulation is not in conflict with any Rule;

Councilは、リーグの管理やルールの作成・変更について広範な権限を有することが分かります。

他方、クラブ側は、The FA RuleのNSLに関する次の規定を楯にとります。

“NATIONAL LEAGUE SYSTEM
2(a) There shall be a National League System comprising participating Competitions between which relegation and promotion links shall operate on such basis as shall be determined by Council from time to time.
(b)  The Competitions and the Clubs participating in the National League System shall be bound by relevant regulations of The Association from time to time in force.
(c)  The Competitions participating in the national League System shall be determined by the Council from time to time.”

要するに、クラブ側は、2(a)において、NLSは毎シーズン昇降格をすることは基本的な要素になっており、いかなる状況下でも、Councilには昇降格を排除する権限はない、というものです。

しかしながら、仲裁パネルは、2(a)はそのような制限的な内容ではなく、2(a)の文言は、Councilが昇降格なくシーズンを終了する決定をするのに十分に広範な権限を定めたものと、判断しました。

特に、今回の決定は、NLSの基礎を変更するものでも、昇降格システム自体を排除する決定ではなく、単に一部終了したシーズンに関するものであり、将来の昇降格システムに影響を与えるものではない、と決定の効力が限定的であることを指摘しています。

そして、2(a)の”on such basis as shall be determined by Council from time to time”という文言でCouncilに付与された権限は広範で特段明示的な制約はなく、今回の決定を根拠付ける、と判断しました。

争点b.について

The FAのルールの中に、規則の修正を提案する前に関係者と協議する旨の規定があり、Councilの決定の前にそうした協議が行われなかったとしてクラブは手続違反による無効を主張しています。

クラブ側が言いたいこととしては、理事会の決定(無効オプション採用)に対し、関係するクラブが意見を述べた手紙やメールを差し出しただけであり、「協議」とはいえない、ということのようです。

これに対し、仲裁パネルは、点でみずに、意思決定の事実経緯を基に、The FAの担当の委員会がクラブ等が反対意見を出していることを認識し、手続の速度を落として投票を行っているなどの事実から、公正かつ適切に協議は実施された、と判断しました。

争点c.について

最後の争点は、The FAの定めるルールは、関係当事者間における契約の内容となっていることから、Councilの決定を実施するために、NLSに関する規定を修正することはできない、というもの。

その根拠として、期待権の保護、遡及効の制限及び禁反言が主張されています。

争点a.でThe FAによる規則の広範な修正権限を認めているので、クラブ側の主張は排斥されています。

規則が修正される可能性があることを前提にすれば、昇格することの期待も、規則が修正されれば、上書きされてしまう、ということです。もちろん、濫用的な修正はできないことが大前提です。

仲裁パネルは、英国サッカーの状況を、Covid-19パンデミックから生じた前例のない事態、として捉えています。
バランス論にも言及しており、The FAはサッカーの統括団体としてサッカー界全体の利益を踏まえ行動する責任があると述べています。
中断オプションや終了オプションを採ったとすれば、3〜7階層において、数試合できそうにないプレーオフが生じるが、単年の選手契約が夏まで及ばないことからすれば、クラブの主張する中断オプションや終了オプションは実行できないものであったと暗に指摘しています。

同じように遡及禁止も禁反言も前提が成立していない、として退けています。

 

仲裁パネルは、クラブの訴えを退けましたが、最後に、クラブに同情する、と書いています。このクラブは、意欲あるオーナーの下でEFL昇進に向けてクラブをうまく運営しており、またクラブに多額の投資を3年連続昇格を達成し、集客も増大していること、クラブの慈善基金を通じて地域社会にも積極的貢献しており、Council決定の日には、2階層へ昇進するのに十分な地位にあった、としています。

仲裁判断らしいまとめ方のように思います。

Step1,2とStep3〜7の扱いを区別した理由に言及されておらず、分かりません。冒頭述べたように、プレミアリーグは再開され、リバプールが悲願の優勝を果たす光景をみれば、このクラブのオーナーの無念さもよく分かります。

このケースから、統括団体内できちんと順を追って、反対意見を考慮しながら、意思決定を積み上げていく重要性を認識できました。とりわけ、開催権限を有するリーグや協会においてはステークホルダーとの調整の難しさを実感します。

おそらく、いずれのオプションをとっても、なにがしかの問題は生じていたと思います。その中で最もリスクの小さいものを選択したように思います。

最近、スポーツ事案で似たような検討をしましたので、その選択の難しさ・苦労がよく分かります。

弁護士大橋卓生