Player’s ContractとCovid-19


ポーランドの元プロバスケットの選手で、現スポーツロイヤーのHubert Radke弁護士が紹介していたBasket Arbitral Tribunalの仲裁事案が、コロナ絡みで興味深かったので、仲裁判断を入手して読んでみました。

ポーランドのプロバスケットボールリーグ(Polska Liga Koszykówki)”Energa Basket Liga”での出来事。

【事実経緯】

2019.7.29

G選手は、BM Slam Stal S.A.というクラブと2019/2020年シーズンの契約を締結しました。

《主な契約条件》

契約期間は、署名した日から最後の公式戦後3日後まで。
ただし、クラブは、選手の着任後3日以内にメディカル/フィジカルテストを行い、選手がこのテストにパスした時に契約が有効となる。
もっとも、クラブが3日以内にテストを実施しなければ、当該テストをする権利を放棄したものとされ、契約は完全に有効となる

報酬は17万ポーランド・ズォティ(約460万円)+税6%で、10月30日から毎月30日払で10回分割。

本契約の履行により選手が負傷し、契約履行が14日以上できなくなった場合、クラブは、所定の割合に減じた報酬を支払う。

選手は、シーズンを通じて健康を維持し、チームドクターの合理的な助言に従い、最高のパフォーマンスを提供し、クラブの名誉を傷つけいないなどの義務を負う。
アルコールの濫用や違法薬物は禁止され、この違反は選手の責に帰すべき事由として契約を解除される。

契約期間中、ポーランド滞在中に選手が負傷した場合、一切の標準的な治療費・入院費をクラブが負担する。
選手は負傷した場合、直ちに、クラブのコーチやトレーナー等に必要事項を連絡しなければならない。

この契約は、期間満了で終了する。
当事者の合意があれば、期間満了前に解除できる。
一方的な契約の終了は相手方当事者に書面かメールで通知をすることで直ちに効力を有するが、契約期間中、この契約の終了の前提が排除されてはならない。

2019.8.12

クラブは、契約に基づき、G選手についてメディカル/フィジカルテストを実施したところ、G選手の尿からマリファナが検出された。
G選手によれば、7月にカナダ滞在中、娯楽としてマリファナを数回吸引したことを認めたが、マリファナの使用は娯楽目的及び医療目的とも完全に合法とのことであった。

2019.8.14

クラブはG選手に対し、公式の警告書を送った。
その内容は、マリファナ吸引はプロとして受け入れがたく、8月26日に2回目のテストを実施し、その結果次第で次のステップを検討する、というものだった。

2回目の尿検査が実施され、結果は陰性であった。

この日以降、G選手は、特段の妨害もなく、クラブでプレーを続けていた。

2019.9.29

G選手は、公式戦の最中に怪我を負い、10月1日に医師の診察を受けたところ●(※ブランクになっています)と診断された。

2019.10.4

クラブはG選手に対し、チームの練習から解放する旨通知をした。

2019.10.14

クラブはG選手(彼のエージェントや弁護士含む)に対し、契約終了通知を送った。その理由は、契約上の違法薬物の禁止に違反した、というものであった。

さらにクラブはG選手に対し、クラブ内規に基づき罰金3万4000PLN(約92万円)の支払を求めた。

2019.10.30

選手は怪我の手術を受け、その費用を自ら負担した。

その後、選手はクラブに反論し、和解交渉をしたが決裂した。

2020.1.7

G選手はBATに仲裁を求めた。
・正当理由なき解除による損害(残存期間の報酬相当)
・契約に基づく手術代等費用請求など

2020.2.24

G選手は新クラブと選手契約を締結し、2019/2020のシーズンの残期間の報酬4000PLN(約10万円ちょっと)を得たため、BATに対し、クラブに請求している損害額の減額を申請。

2020.3.6

仲裁人は、主張の交換が終了したことを宣言した。

その後、ポーランド政府は、Covid-19による緊急事態宣言を発し、外出禁止命令を出し、ポーランド・バスケットボールリーグは無期限の中断となった。

2020.3.19

クラブは、状況が変わったことを理由に、新主張を提出すべく、仲裁手続の再開を仲裁人に申し立てた。

2020.3.23

再開決定

2020.4.8

仲裁手続終了

【争点】

  1. クラブによる一方的な契約の終了は正当事由があるか
  2. Covid-19によるバスケットボールリーグの中断が生じたという事情は、クラブがG選手に負う損害賠償額の計算に影響を与えるか(減額事由となるか)

1については、事実経緯を見て、クラブが当初それほど問題にしなかったマリファナ吸引について、G選手が手術が必要な負傷したことを契機にクラブをやめさせるための方便として使われた感じがしました。

仲裁人も、丁寧に契約条項を拾って、そうした判断をしています。2回目の検査が陰性となった後負傷するまでの2か月弱、おとがめなしでG選手をプレーさせていますし。

ですので、クラブの一方的な契約の終了に正当事由はなく、クラブはG選手に対して残存シーズンの未払の報酬約15万PLN等を支払う義務を負うのです。

ところが、ここでCovid-19が登場します。

クラブの主張は、Covid-19による緊急事態宣言とポーランド・バスケットボールリーグの無期限中断となったため、当事者の義務は、不可抗力・事情変更により不能となるから、この事情を踏まえて損害額が計算されるべき、というもの。

しかし、これは時系列を負っていけば、クラブの一方的な契約の終了は、Covid-19と関係なく、パンデミックが生じる前の出来事でした。

不可抗力や事情変更は、契約関係の存在を前提にその債権債務をどう扱うかという問題です。

このクラブとG選手との契約は、2019年10月14日に終了しており、契約関係は存在していません。

このことは、BATがCovid-19下のスポーツ仲裁について示したガイドラインにも明記されています。

“When calculating damages for any unlawful termination not related to the COVID-19 crisis, the arbitrators will, in principle, not take into account the hypothetical impact that the COVID-19 crisis would potentially have had on the contract had it run its normal course. In particular, in case of any unlawful termination by a club that is unrelated to the COVID-19 crisis, the Guidelines on reductions of players’ and coaches’ salaries ….. shall, in principle, not apply to the calculation of damages or outstanding remunerations under the contract.

The onus of proof that the Guidelines exceptionally apply for reasons of equity shall be on the respective club. Elements that may be taken into account in this context are, in particular, the nature, the motive and the gravity of the contractual breach committed, the vicinity of the breach to the Lockdown Period and the behavior of the parties subsequent to the breach. In case there are reasons to deviate from the above principle, i.e. non-application of the Guidelines, preference should be given to deferring the maturity of some of the claims to the beginning of the 2020/21 season…”

このクラブによる違法な契約終了は、特にCovid-19と関係ないので、基本的に仲裁人はCovid-19の影響を考えなくてもよいことになります。

Covid-19下で生じうる紛争についていろいろ考えられているガイドラインです。BATは、こういうものを速やかに発行できる優秀なスポーツロイヤーが揃っているのですね。

そういえば、G選手の負傷部位はブランクになっていましたが、最後の最後に2か所消し忘れがあって、どういう負傷かわかってしまいました。見なかったことにしましょう。

弁護士大橋卓生