“Inter” Milan vs Miami 


ベッカム元選手やソフトバンクの孫さんらが出資して2018年に設立された”Inter Miami CF”(正式名称:Club Internacional de Fútbol Miami)ですが、イタリア・セリエAの老舗クラブ”Inter Milan”(正式名称:Football Club Internazionale Milano)と”Inter”商標を巡って、米国で係争中のようです。

正確には、Inter Miamiが所属するMajor League Soccer(MLS)は、”Single Entity”(単一の事業体)で運営されているので、Inter Miami FCではなく、MLSに所属するクラブの知的財産権を保有しているリーグ本体のMLSが戦っています。

MLSは、米国4大プロスポーツのMLB・NFL・NBA・NHLとは大きく異なり、クラブと選手が1つの事業体であるリーグの中で運営されています。具体的には、投資家がLLC(合同会社)として組成されるMLSに出資します。出資した投資家にはクラブの運営権が与えられます。基本的には、MLSが収益をあげてそれを投資家に分配します。費用も選手の給与などもMLSから支払うことになります。

このように運営する趣旨は、米国4大プロスポーツで生じた独占禁止法の適用を回避することになります。米国4大プロスポーツは、独占禁止法と労働法を通じて選手側が移籍の自由などを獲得し、報酬が高騰してきました。

米国では人気面で他の4大プロスポーツに劣るプロサッカーを継続していくには、財政面のコントロールが必須と考えて、こうした仕組みととったようです。過去にこの仕組みについて、独占禁止法でチャレンジがなされたようですが、米国の裁判所は、独占禁止法違反の訴えを退けたようです。

話は逸れましたが、2020年から、MLSにInter Miamiが加入することとなり、チーム名に関する商標が問題となりました。

Inter Milanが、2014年にUSPTO(米国特許商標庁)で、”Inter”を商標登録していたからです。

登録内容を見ると、プロサッカー興行などの役務やスポーツ用品などプロスポーツに関連する商品・役務で登録されています。
犬の首輪、犬の鎖、にも登録があったので、こうした類の商品も扱っているのかと調べたら、ありました。

Inter Milan Dog Collars

ともあれ、”Inter Miami”のチーム名で商標登録したいMLSにとっては、Inter Milanの登録商標”Inter”が邪魔になります。この登録が有効に維持されれば、Inter Milanの承諾がなければ、”Inter Miami”は使えず、チーム名を変更しなければなりません。

そこで、MLSは、USTPOに対し、”Inter Miami”の商標登録とともに、”inter”の商標登録に異議を申し立てました。異議の理由としては次の2点です。

  1. “inter”はサッカー界で広く使用されている説明的な単語に過ぎない(“inter”という単語に自他識別力はない)
  2. “inter”を使用している世界中のクラブ間で誤認混同が生じる

“inter”を使っているクラブやリーグとして、米国内ではInter Soccer Association、 InterCounty Youth Soccer League、Chicago Inter Soccer Club、 Inter Atlanta FC 、Inter Nashville FCがあるようです。

世界的には、SC Internacional of Porto Alegre(Brazil)、FC Inter Turku (Finland)、 NK Inter Zapresic (Croatia)、 Inter Leipzig (Germany)、Inter de Grand-Goave (Haiti)があるようです。

MLSの異議の趣旨は、要するに、”inter”=”Inter Milan”だけを想起させるものではない、ということです。

USTPOのTTAB(商標審判部)は、最近、2番目の争点について、”inter”を使用している他のクラブがあるという主張は、MLSが”inter”を使用する有効な権利があることを証明していないとして棄却しました。

これに対して、MLSはさらに誤認混同の異議を申し立てたようです。ただ、上記争点に2に似た主張のようです。

“inter”を使用するInter Miami自身が主張すれば、権利主張としては足りるのでしょうが、”inter”を使用しないMLS自身が行っている点でTTABがひかかっているように思われます。MLS式のSingle Entityの難しさでしょうか。
Inter Miami自身に商標登録させて、事後、MLSに商標を譲渡してもらう、というやり方もあると思います。

争点1の方の判断はまだのようですが、”inter”は”−の間”という意味やサッカーでいえば”international”の短縮形として使用されていますので、ありふれた単語のように思われます。
ただ、個人的には、サッカーで”inter”(インテル)といえば、”Inter Milan”を想起します。

そうすると、単語それ自体はありふれたもので、自他識別力はないけれど、Secondary meaning(特別顕著性)を獲得した、ということのような気がします。

専門家の中には、和解解決の示唆をされている方もいました。
ただ、”inter”に独占権を得たMilanが、Miamiによるサッカー関連の商品・役務の使用に譲歩する理由が思い浮かびません。それこそ、非独占のライセンスとならざるを得ないように思います。

そうした和解も成立せず、USTPOが”inter”の登録を維持した場合、MLSは、Inter Miamiの名称を変更をせざるを得なくなります。

ところで、日本での商標登録を見てみましたが、MilanはMilanでもAC Milanの商標登録はありましたが、Inter Milanの関係の登録はありませんでした。
“inter”で登録しようとした場合、「インテル入ってる」の”intel”との類似が問題となりそうですが、主要なところは商品・役務が異なりそうなので、それほど問題にはならないように思われます。少なくとも、犬の首輪は大丈夫そうです。

弁護士大橋卓生