プロサッカーリーグと昇降格システム


Jリーグは、J1からJ3まで3つのディヴィジョンがあり、毎シーズン終了後に、それぞれのディヴィジョンの下位あるいは上位のチームが入れ替わることがあります。こうしたディヴィジョン間を行き来する昇降格システムを”promotin and relegation “といいます。

ちなみに、プロ野球のように昇降格のないリーグを”closed league”と言ったりします。

世界のサッカーを統括するFIFAは、2008年に”REGULATIONS GOVERNING THE APPLICATION OF THE STATUTES”(RGAS)を改正して、次の規定を設けました。

9 Principle of promotion and relegation

  1. A club’s entitlement to take part in a domestic league championship shall depend principally on sporting merit. A club shall qualify for a domestic league championship by remaining in a certain division or by being promoted or relegated to another at the end of a season.
  2. In addition to qualification on sporting merit, a club’s participation in a domestic league championship may be subject to other criteria within the scope of the licensing procedure, whereby the emphasis is on sporting, infrastructural, administrative, legal and financial considerations. Licensing decisions must be able to be examined by the member association’s body of appeal.
  3. Altering the legal form or company structure of a club to facilitate its qualification on sporting merit and/or its receipt of a license for a domestic league championship, to the detriment of the integrity of a sports competition, is prohibited. This includes, for example, changing the headquarters, changing the name or transferring stakeholdings between different clubs. Prohibitive decisions must be able to be examined by the member association’s body of appeal.
  4. Each member association is responsible for deciding national issues, which may not be delegated to the leagues. Each confederation is responsible for deciding issues involving more than one association concerning its own territory. FIFA is responsible for deciding international issues involving more than one confederation.

なお、RGASは、FIFA Statuesに付随する形で規定されており、定款の細則的な感じです。

そのRAGSに定められたこの昇降格の原則が、アメリカのサッカーリーグで問題となりました。

アメリカのサッカーリーグは、Major League Soccer(MLS)以外にも、いくつかありますが、いずれも昇降格システムは採用しておらず、”closed league”で運用されています。MLBやNFLなど他のメジャースポーツと同様です。アメリカには昇降格システムが根付いていないようです。

さて、ディヴィジョン2のリーグに属していたMiami FC及びKingston Stockade FCが、U.S.Soccer Federation(USSF)、Confederation of North, Central American and Caribbean Association Football(CONCACAF)・Fédération Internationale de Football Association(FIFA)を相手に、次の事項の確認を求める訴えをCASに提起しました。

  1. FIFA・CONCACAF・USSF(被申立人ら)は、米国で昇降格の原則を執行しないことにより、団体に関するスイス法及びスイス競争法に違反していること
  2. 昇降格の原則の履行は、RGAS9条に基づく義務であること
  3. 被申立人らは、直ちに昇降格の原則を米国で実施すること
  4. 被申立人らに対し、米国プロサッカーにおいて、昇降格の原則を履行するために必要な措置を講じるよう命じること

申し立てたチームの言い分は、昇降格システムが導入されていないので、MLSに昇格する機会が奪われており、多大な損害を被っている、とのこと。

当事者の整理

Miami FC
訴え提起当時(2017年)は、Division2にあたるNorth American Soccer League(NASL;北米サッカーリーグ)に所属していたが、この事案係属中の2018年にNASLから脱退。2019年からNational Premier Soccer League(NPSL)に所属しMiami FC2に改名。
※ベッカムや孫さんが出資して設立したMLSのInter Miami CFとは別のチームです。

Kingston Stockade  FC
NSPL所属

FIFA
言わずと知れたサッカーの国際的統括団体

CONCACAF
北中米カリブ海サッカー連盟(大陸連盟Confederationの1つ)
アメリカ大陸の連盟は略称が長いですね。南米サッカー連盟はCOMENBOL(Confederación Sudamericana de Fútbol)とか。

USSF
アメリカサッカー連盟。NPSLは、USSFの加盟団体です。

 

アメリカのプロサッカーリーグ

CASの裁定書によれば、次のとおり。

Division 1   MLS
Division 2   United Soccer League Championship(USLC)
Division 3   USL League One, National Independent Soccer Association(NISA)

Miami FCが属していたNASLはDiv2にあたるプロサッカーリーグだったらしいのですが、2018年以降、USSFからプロサッカーリーグの承認が得られず、活動停止となったようです。

NPSLはプロリーグではないようです。

 

争点

  1. 申立チームの当事者適格
  2. RAGS9条は、米国プロサッカーに昇降格原則の実施を求めているか。
  3. 被申立人らは昇降格の原則を適用しないことによって、団体に関するスイス法に違反しているか。
  4. 被申立人らは、昇降格の原則を適用しないことによって、スイス競争法に違反しているか。

 

1.について

Miami FCがプロリーグを途中で脱退したり、明らかにプロリーグに属していないKingston Stockade FCの訴状に対し被申立人らが答弁したりしたうえ、「当事者適格がない」という主張が聴聞会が近くなってから出されたりと、カオスな状態になっています。

だいぶ裁定のページが割かれてますが、パネルは、結局、本案が棄却なら、当事者適格判断しなくてもいいので、本案から判断する、という整理で、この判断を避けています。

2.について

これがメインの争点になります。

申立チームは、被申立人らと直接の加盟関係にはないので、契約法ではなく、団体法の適否の判断となり、スイス法の判断基準(団体自治の存在、大規模団体と中小規模団体に対する解釈手法の違いなど)を示して、RAGS9条の法的性質や解釈をしています。

まず、文理解釈によれば、RAGS9条は、すべてのメンバーに昇降格の原則の適用を義務付けたり、一定のメンバーを除外するものではありません。

これだけでは解決しないので、目的的解釈をしています。これは、起草者の意図及び制定の後の運用状況を、各種委員会の議事録や関係者の手紙などから詳らかにして判断しています。

そもそも、FIFAが昇降格の原則を明記しようとしたのは、”Granada Case”が繰り返さないようにするためです。

※Granada Case(CAS/O/1361)
スペイン2部リーグのCiudad de Murciaが上場企業に買収された後、本拠地を元の場所から400km離れたグラナダ市に移転し、かつクラブ名を”Granada 74″に変更してしまいました。
問題は、買収した企業のオーナーは、スペインの4部リーグに属する”Granada 92″のオーナーでもあったことです。
スペインサッカー協会やUEFA、FIFAはこれを問題視しました。4部リーグのオーナーが上位リーグに所属するクラブを買収して、4部リーグのチームと似たチーム名にしたことから、クラブの買収によって昇格を買うという先例になってしまうと危惧したようです。
しかしながら、当時のUEFAやFIFA定款には違反に該当する具体的な規定がないため、抽象的な規定違反を主張しましたが、CASではクラブ側が勝訴しました。
スペインの会社法では本店の移転や名称変更が認められていたことや2部リーグのチームと4部リーグのチームはそれぞれ存在していたことなどが理由のようです。

こうした昇降格の原則を規則に明記することがFIFAで検討された際、昇降格の原則を採用していない国として、米国とオーストラリアが挙げられました。議事録等の中で、米国やオーストラリアなど昇降格システムを採用していないメンバーには、昇降格の原則を適用するものではなく、既に昇降格システムを採用しているメンバーにのみ適用されることが明確にされており、その前提でRGAS9条が採択されていました。

RGAS9条導入後の事情を踏まえても、採択の趣旨どおり運用されている(米国やオーストラリアに特段の措置がとられていないなど)ということで、解釈に変更はないと判断されています。

以上から、パネルは、RGAS9条について、米国やオーストラリアなど昇降格システムを採用していないメンバーには適用が除外されている、と解釈しました。

したがって、RGAS9条は米国プロサッカーに昇降格の原則の実施を求めていない、という結論です。

3.と4.について

上記2.の争点の結論を前提に、そういったことが求められていないので、昇降格の原則を実施していなくても、スイス法の違反はない、ということになりました。

この件、Miami FCは、Inter Miamiの前身だと思って興味を持ったのですが、そうでないことが分かって、くじけそうになりましたが、興味深い内容でした。
仮に日本のJリーグが昇降格システムを廃止するような場合は、このCAS裁定によれば、RGAS9条違反ということになりますね。

次は正真正銘、Inter Miami対Inter Milanの戦い、試合ではなく”Inter”の使用を巡る争いです。

弁護士大橋卓生