Liverpool FC vs New Balance -スポサーシップ契約紛争-


Liverpool FCは、ユニフォームのサプライヤーとして、2011年まではアディダスと年間1200万ポンド(約17億円)のスポンサー契約を締結していましたが、そのシーズンに8位に沈むと、アディダスから契約を打ち切られました。

アディダスの後を受けてNew Balance(NB)がユニフォームのサプライヤーとなり、現在、年間4500万ポンド(約63億円)のスポンサー契約を締結しているようです。具体テには、チームのユニフォームやジャージの提供、ユニフォームのレプリカの販売を行うという内容のスポンサー契約です。

Liverpool FCとNBとのスポンサー契約は2019-2020シーズンで期間満了になるところ、2020-2021シーズン以降のスポンサー契約をどこと契約するかが焦点となりました。

Nikeが新シーズン以降のユニフォームの提供等について名乗りを上げ、Liverpool FCはこれを受けたことに端を発します。

これに対して、NBは、現行のスポンサー契約上、第三者が提示した条件と同一以上の条件を提示すれば、その条件で新契約を締結できる、という条項(Matching Right)が存在すること、及びNike提示の条件と同一条件を提示したことを主張しました。

これに対して、Liverpool FCは、スポンサー料が同額であっても、Nikeは大きな流通ネットワークを有しており、同一条件にはならない、と反論し争いに発展しました。

そこで、裁判で解決を図ることにしたようです。2019年9月に申し立てて、同年10月には判断が出ているので、約1か月という迅速な裁判でした。判決を入手したので、ざっくりまとめてみます。

NBの主張の根拠となったMatching Right条項(概要)

判決によれば、条文は引用されていませんが、おおよそ次のような内容です。

  • 契約の更新について”First dealing period”の間に誠実に交渉する
  • 合意に達しなかった場合、Liverpool FCは、第三者(NBの競合他社)と交渉することができる
  • 第三者からのオファーを受け入れる場合、Liverpool FCは、NBに当該第三者からの条件を開示しなければならない
  • NBは、当該第三者提示の条件と実質的に測定可能な同等の条件よりもLiverpool FCに有利な条件で新契約を締結しようとする場合、当該第三者からの条件の開示を受けてから30営業日以内に書面でLiverpool FCに通知する
  • NBがLiverpool FCに当該通知をした場合、Liverpool FCはNBとNBが提示した条件で新契約を締結しなければならない

スポンサー契約にはよく見られる条項ですね。

実際には、2019年7月11日にLiverpool FCとNIKEとの間で契約を締結して、NBが有効な条件提示をした場合に終了するという解除条件を付けていたようです。その署名された契約書をNBに開示し、NBが同一条件以上の条件を提示する機会を与えたようです。

Nikeのオファー内容

契約金としては年間3000万ポンド(約42億円)でした。固定額として既存のNBとのスポンサー契約の契約金よりも1500万ポンド(約21億円)低いものでした。ただし、このほかにライセンス製品(フットウエア除く)の純売上の20%およびフットウエアの純売上の5%を支払う旨の条件がついています。

そのライセンス製品を流通・販促するためのMarketing and Distribution条項が存在し、これがこの紛争の中心的な争点となりました。

次のような内容です。

  • Nikeは、少なくとも2つのグローバルなNike管理ブランド(例:NikeとConverse)でライセンス製品を生産する。
  • 主要な米国市場で主要な米国のスポーツチームとの連携を含むサードパーティブランドと共同でライセンス製品を生産する。
  • サッカー選手ではない3人以上の世界的なスーパースター・アスリートおよびレブロン・ジェームズ、セリーナ・ウィリアムズ、ドレイクなどの影響力を持つ人物をフィーチャーしたマーケティング活動を通じて、Liverpool FCおよび/またはライセンス製品の販促を行う。
  • シーズン2020/21の開始に向けて生産されたライセンス製品を(1)世界中の13,000店舗で販売できる可能性を有する6000店舗以上で、そのうち500店舗はNikeが所有または管理する店舗で販売すること、かつ(2)Nike.comを通じてオンラインで51か国以上でライセンス製品を販売する。Nikeは、ライセンス製品を少なくとも6000店舗(うち500店舗はNikeが所有または管理する)で販売することを保証する。

NBの対案

以上のNikeの提案に対し、NBは次の対案を出しました。

  • NBは、少なくとも2つのグローバルなNike管理ブランド(例:New BalanceとWarrior)でライセンス製品を生産する。
  • 主要な米国市場で主要な米国のスポーツチームとの連携を含むサードパーティブランドと共同でライセンス製品を生産する。
  • サッカー選手ではない3人以上の世界的なスーパースター・アスリートおよび影響力を持つ人物をフィーチャーしたマーケティング活動を通じて、Liverpool FCおよび/またはライセンス製品の販促を行う。
  • シーズン2020/21の開始に向けて生産されたライセンス製品を(1)世界中の13,000店舗で販売できる可能性を有する6000店舗以上で、そのうち500店舗はNBが所有または管理する店舗)で販売すること、かつ(2)New Balance.comを通じてオンラインで51か国以上でライセンス製品を販売する。NBは、ライセンス製品を少なくとも6000店舗(うち500店舗はNikeが所有または管理する)で販売することを保証する。

基本的にNikeの提案と同じですが、マーケティング(上記3つ目の黒丸部分)に関して、Nikeがスーパースター・アスリートの名前を具体的に挙げていたのに対して、NBは具体名に言及していませんでした。

スポンサー料についてどのような提案がなされたか分かりませんが、当初Liverpool FCは、NBがNikeの提案と実質的に測定可能な同等の条件を対案とし出すことが難しいと考えたようで、契約金年額6000ポンド(約84億円)及びNBの店舗の65%の店舗にライセンス製品を流通させる条件であれば、契約更新する旨申し入れたようです。

しかしながら、NBはこの提案を断り、Nikeに併せて上記の提案をしたようです。契約金及びライセンス製品の売上歩合については触れられていませんが、Nikeよりも良い条件を提案していれば、そこも争点となっていたと思われますので、Nikeと同じ提案をしたものと思われます。

Liverpool FCの対応

Liverpool FCは、次の2点で、NBの対案はNike提案に合致しないと主張しました。

  1. NBはNBが所有または管理する500店舗に製品を流通させ、かつ6000店舗で製品を流通させる能力がなく、NBの対案が不誠実であること(争点1)
  2. マーケティングに関してスーパースター・アスリートの具体名の言及がなく、Nike提案と同一条件ではないこと(争点2)

裁判所の判断

争点1について

NBは、内部でデュー・デリジェンス(DD)を実施した結果、ライセンス製品を6300店舗(うちNBが所有または管理する店舗は1302店舗)で販売できることが明らかになった、と主張しました。

これに対して、Liverpool FCは、そのDDについて、次の5つの疑問点を挙げて反論しました。

①日本における流通の問題
②中国における流通の問題
③ブラジル市場の評価の問題
④北米の店舗数の問題
⑤南アフリカ、インド及び南米の店舗数の問題

誠実か否かの判断については、「合理的かつ正直な一般人が問題ある行為を商業的に受け入れられるか否か」という基準をたてて、上記各問題点を検討しました。

結論として、裁判所は、NBに軍配を上げ、流通に関するNBの対案は、不誠実になされたものではなく、Nikeの提案に合致すると判断しました。

争点2について

Nike提案とNB対案の差は、マーケティングに起用する次のスーパースター・アスリートおよびインフルエンサーの具体名の列挙の有無でした。

「レブロン・ジェームズ、セリーナ・ウィリアムズ、ドレイクなど」

上記文言の有無が、Nikeの提案と合致するかが問題となりました。

NBはマーケティングに関する条件はあいまいであり、測定することができない条件であると主張しました。

しかしながら、裁判官は、特定のスーパースター・アスリートおよびインフルエンサーの能力を使用することを明示したこと、そしてそのスーパースター・アスリートのマーケティングに関する能力は測定可能である(例えばSNSにおける露出効果測定など)と判断しました。

結論として、裁判官は、Liverpool FCはNBにレブロン・ジェームズ、セリーナ・ウィリアムズ、ドレイクなど起用することを要求できないため、NBの対案はNike提案よりもLiverpool FCに有利なものとはいえない、としました。

 

この結果により、Liverpool FCは、2020/2021シーズンからNikeと契約をすることになったようです。ただ、NBは上訴を試みるようです。

Matching Right条項の「実質的に測定可能な同等の条件」として、契約金だけでなく、ライセンス製品の流通およびマーケティングの条件が問題となりました。

金額や店舗数といった定量的な評価で判断できれば明確になりますが、マーケティング条件のような定性的な評価が必要な判断が入ってくると、こうした争いも増えるように思います。

特に本件の経緯からすれば、Liverpool FCは契約金の多寡というよりも、ライセンス製品の流通拡大に主眼を置いていたように思います。ビッグクラブと契約を維持したいスポンサーとしては、定性的評価に制限を加えて、できる限り定量化できる指標で条件をの同一性を判断できるようにすることが考えられます。もっとも、このあたりはクラブは、より有利な条件を求めたいと考えるでしょうから、双方のパワーバランスによることになるのでしょう。

なかなか興味深い事案でした。

弁護士大橋卓生