BaseballとConcussion


米国のファウルボール事故と変容しつつあるBaseball Ruleについてアップデートしていたところ、MLBのファルチップによる脳震盪問題がひっかかりました。

先日、サッカーでは、ヘディングによる脳震盪が問題視され、Football Association(FA)から18歳以下の選手に対するヘディングのガイドラインが出され、11歳以下のヘディングが禁止されました。このガイドラインは、Glasgow大学の”FIELD”調査研究結果によるものです。

そういえば、米国では、FAのガイドラインが出る前からU11のヘディングが禁止されていました。これは米国のサッカーをやっている未成年者の保護者が、2014年にFIFAやUS Soccerなど未成年者のサッカーを統括する組織を相手に、ヘディングの規制や脳震盪に関するReturn to Playルールなどの整備を求めてクラスアクションを起こたことに端を発しています。

その際の訴状によれば、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の脳震盪の原因調査でスポーツ起因が2位であること、サッカーでは若年層のヘディングがリスクが高いことなど130頁にわたってまとめていました。

この訴訟の解決として米国サッカー団体は共同して、U11のヘディング禁止やReturn to Playルールの導入などUS Soccer Concussion Initiativeを作成し、その実施を義務付けています。

FAは、イギリス(イングランド、スコットランド、北アイルランド)のサッカーの統括団体ですので、今回のヘディング規制が直ちに世界に適用される訳ではありませんが、Glasgow大学の調査研究結果や米国のクラスアクションの根拠となった調査研究結果を踏まえて対応を考える必要があるように思います。

話が逸れましたが、ファウルチップ脳震盪問題です。

2010年〜2013年の間に脳震盪で故障者リスト入りした選手112名を対象にその原因を調査した結果、デッドボール(25.9%)、ファウルチップ(25%) 、外野フェンスや選手同士の衝突(23.2%)、ダイビングキャッチ等(18.8%)、乱闘等(6.3%)だそう[1]

キャッチャーで危険とされていたホームベース上でのランナーとの衝突は、コリジョンルールの導入によって、脳震盪リスクが大幅に減少したとの研究があります[2]

ファウルチップの問題は、ファウルチップがあたることによって脳震盪を起こし、その蓄積によって慢性外傷性脳症(CTE)を発症するというリスクがあると指摘されています。

野球の性質上、ファウルチップが当たってしまうのはキャッチャーにとっては不可避ですので、ルールを設けてなんとかすることはできません。現在、キャッチャーマスクの改良のための研究を多く目にします。

いろいろ調べてみると、MLBで最初にCTEと診断されたRyan Freel選手(2012年自殺)はキャッチャーではなく、外野手でした。死後彼を診断した医師グループは、8年のキャリアで10回脳震盪を起こしたと推定したようです。その原因は、ダイビングキャッチや外野フェンスへの衝突だそうです[3]

キャッチャーが生涯のうちにファウルチップを受ける回数は、野手よりも多いことを考えるとリスクの大きさも分かるように思います。キャッチャーと同じリスクは、アンパイヤもありますね。

ヘルメットの改良で解決すればよいのですが。

現在、MLBは脳震盪のための故障者リスト入りは7日認めていますが、7日では短いのではないかと指摘する医師もいるようです。

未成年者の場合はどうなのでしょうか。いくつかの研究結果を見ると、アメフトやサッカーほど高くはないようです[4][5]。原因としてもデッドボールなどボールが頭に当たって脳震盪を起こす場合が多いようです。特に高校・大学でヘルメットの着用をせずプレーしたり、脳震盪のReturn to Playルールに従っていないことを指摘されていました[6]
しかし、キャッチャーのファウルチップのリスクを指摘するものは今のところ見あたりませんでした。おそらく、MLBの投手の投げる球やバッターのスウィングの速さもリスクに関係しているのだろうと思います。

未成年者の野球でキャッチャーが禁止されてしまうと、野球でなくなってしまうような感じですが、すぐにはそのようなことにはならないとは思います。リスクは小さいとはいえ、MLBで問題視されている点は気にかけておく必要はあると思います。

Zackery Lystedt Law

13歳の時にアメフトで頭部外傷によって重度の障害を負ったZackery Lystedt君にちなんだ青少年を脳震盪から保護する法律がワシントン州で成立して以降、これをモデルとして同種の法律が米国各州に制定されています。

脳震盪のガイドライン及び教育プログラムの作成・実施、毎年、学校でのスポーツ活動を開始する前に頭部外傷のインフォメーション(脳震盪の機序、リスク、兆候・症状、脳震盪を起こした場合の対応・復帰ルールなど)を提供し、本人・保護者が理解したことを署名した文書を提出させえうことなどが定められています。

日本にはこうした法律はありません。

スポーツ弁護士たまさんによれば、

「作ればいいじゃん」

とのこと。

スポーツ基本の基本理念(2条)には、

4 スポーツは、スポーツを行う者の心身の健康の保持増進及び安全の確保が図られるよう推進されなければならない。

と定められていますし、

(スポーツ事故の防止等)
第14条 国及び地方公共団体は、スポーツ事故その他スポーツによって生じる外傷、障害等の防止及びこれらの軽減に資するため、指導者等の研修、スポーツ施設の整備、スポーツにおける心身の健康の保持増進及び安全の確保に関する知識(スポーツ用具の適切な使用に係る知識を含む。)の普及その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

という規定もあるので、こうした理念の具体化としてスポーツ脳震盪予防・対策推進法みたいのを制定してもよいのではないかと思います。このあたり、過去に弁護士会の業革シンポのスポーツ法分科会で取りあげたテーマですが、なかなか進んでませんね。

スポーツ弁護士たまさんによれば、

「たまさん、動きます」

とのことでした。

弁護士大橋卓生

[1] Sabesan et. al(2018). Concussion rates and effects on player performance in Major League Baseball players

[2] Baker, Volchenko & Athiviraham(2020). Does the MLB’s collision at home plate rule change prevent concussion injuries in catchers?

[3] https://edition.cnn.com/2013/12/15/health/baseball-ryan-freel-cte-suicide/index.html

[4] Herring & Bell (2011). Youth Sports Concussions, An Issue of Physical Medicine and Rehabilitation Clinics

[5] Buzas et. all (2014). Concussions From 9 Youth Organized Sports

[6] Cusimano & Zhu (2017). Systematic Review of Traumatic Brain Injuries in Baseball and Softball: A Framework for Prevention