Graffiti 2 – VARAと落書きと破壊 –


他人の所有物に無断で落書きをすることは、器物損壊や建造物損壊など刑事罰が科される違法行為です。それが例えBanksyであっても、結論は同じです。

このあたりは、以前の投稿”GRAFFITI – 落書き著作権-“でまとめたところです。その中で、NYの5Pointzの事案に触れましたが、控訴審2nd Cir.の判断が出ましたので、その内容を読んでみました。

概 要

そもそもの始まりは、2002年、廃倉庫の所有者が、有名なスプレーアーティストJonathan Cohen(アーティスト名:Meres One)氏に依頼して、廃倉庫をアーティストのための展示スペースにしたところから始まります。

そうして、廃倉庫は、Cohen氏を中心にして、落書きアートのメッカ”5Pointz”として呼ばれるようになり、多くの観光客や著名人、メディアが訪れるようになりました。

5pointzの特徴は、”Creative destruction”(創造的破壊)だそう。いくつかの作品は永続性を持っていたようですが、上塗りを繰り返されるため、多くの作品はの寿命は短いものでした。このあたりは、Cohen氏がうまくシステム化していたようで、永続性のある”Longstanding walls”と数日ないし数週間で上書きされる”Short-term rotating walls”に区別して運用され、破壊されるまで合計約10,650もの落書きがされたようです。

2013年に、廃倉庫の所有者が5Pointzを解体して高級アパートを作ろうとしていることが分かると、Cohen氏は、ニューヨーク市歴史建造物保存委員会に5Pointzを重要文化施設に認定するよう申請しました。

しかしながら、これはうまくいかず、今度は、資金調達をして廃倉庫を購入しようとしましたが、これもうまくいませんでした。

そこで、持ち出したのが、Visual Artists Rights Act(VARA)に定められている著作者人格権です。”The work for recognized stature”(名声が認められる著作物)については、破壊を防止する権利が認められています。

Cohen氏らアーティストが5Pointzの落書きを破壊しないように努力している間隙を縫って、廃倉庫所有者は5Pointzの落書きを白塗りすることによって破壊してしまったようです。

一審では、この権利侵害を認めて、廃倉庫所有者に$6.75M(約7億5000万円)の損害賠償を命じました。

2nd Cir.の判断

一審判断を維持しています。

“Stunning Legal Decision”などと評している報道もありましたので、違法にされた落書きを白塗りなどして破壊する行為を違法として損害賠償を認めたものかと思いましたが、そうではありませんでした。

5Pointzの落書きの多くは、数日から数週間で上書きされる一時的な作品ですが、こうした落書きアートでも”The work for recognized stature”にあたると判断しました。過去の判例を調べていないので、これが驚くべきことなのでしょうか。

ただ、判決の理屈は、特に驚くべきことではなかったです。

VARAにおいて”The work for recognized stature”の定義で永続的か一時的かは触れていないことを指摘しました。

そして、”Christo”と”Jeanne-Claude”がニューヨーク・セントラルパークに設置した7503個のオレンジのビニールゲート”The Gates”は2週間だけ設置された一時的な作品であるが、これは多くの美術の専門家だけでなく一般大衆からも賞賛され注目されてものであり、”recognized stature”を得た例である、としています。

また、Banksyにも触れ、Banksyはオバマ大統領やスティーブ・ジョブズと並んでTIME誌が選ぶ世界で最も影響力のある人々に選ばれており、その作品はしばしばし上塗りされるが、美術界及び一般大衆から広く認められていること(特には$1.4M(約1.5億円)で落札された直後にシュレッダーされてしまった一時的な作品”Girl with Balloon”にも言及)を指摘しています。

“The work for recognized stature”(名声が認められる著作物)にあたることは、専門家の証言及び非専門家の認識に関する証拠が必要になります。

なお、VARAや破壊防止権に関しては、安藤和彦先生が「アメリカ著作権法におけるモラル・ライツの一考察」という論文で詳しく書かれていて勉強になります。

VARAの破壊防止権の規定を見ていると、廃倉庫所有者が負けるのも当然のように思います。

Banksyが出てきたので、違法落書きについて興味深い判断があると思ったのですが、事案がそもそも違法落書きではないので、ちょっと残念でした。

廃倉庫所有者に厳しいように見えますが、VARAには所有者が破壊防止権を侵害しないで、所有建物を取り壊しできるよう調整規定が設けられています。

作品がこれを破壊しなければ建物から取り除けいないような場合は、設置した作品がそれを削除する場合に破壊される可能性があることを明記した書面を建物所有者と著作者が署名しておけば、人格権の適用を免れることとされていますが、この廃倉庫所有者はこうした書面の取り交わしをしていませんでした。

また、作品を破壊せずに建物からの取り除くことができる場合、建物所有者は、著作者に、90日前までに通知して、作品を除去するか、除去費用を支払う機会を与えればよいのですが、この廃倉庫所有者はこうした通知も行っていませんでした。

落書きアートがどういう状態だったかわかりませんが、所有者の所有権に配慮し、著作者の破壊防止権と調整する規定があったのに、それに沿った対応をしていなかったというようで、損害賠償はやむを得ないのかなと思います。

全般的に廃倉庫所有者の主張はことごとく否定されていました。

ただ、アート弁護士の中には、この判断は連邦最高裁に上告されたら覆る可能性があると悲観しているという報道もありました。

認定された事実とVARAからしたら、地裁・2nd Cir.の判旨は説得的に見えます。

弁護士大橋卓生