株式会社Aerosmith


「いらっしゃいませ」が「エアロスミス」に聞こえる経堂駅前のコンビニの店員でおなじみのAerosmith。

50年ものキャリアがあるのに、メンバーの入れ替わりが少ないバンドです。

今年は、MusiCares Person of the Yearを受賞しその授賞式およびグラミー賞でも演奏しました。しかし、そこには、創設メンバーのJoey Kramer(Dr.)の姿はありませんでした。

Aerosmithの日本公演はだいたい行っていますが、お腹にずしんと響く彼のバスドラの音は印象に残っています。

さて、不在の理由を調べていると、Joey Kramerが他のメンバーを相手に訴訟を提起していたことが判明しました。

いくつかニュースを見ると、Kramerは2019年の春頃に足を怪我(バスドラムが踏めない怪我のようです)して一時的にツアーに参加できなかったようです。治癒した後にバンドに復帰しようとしたところ、メンバーから拒否されたため上記授賞式での演奏に参加できないことから、その救済(参加を認めること)を求めて訴えたようです。

バンド側は、2019年の9月頃に、Kramerに、レコーディングのための練習セッションに参加するよう呼びかけたところ、Kramerから「心の準備ができていない」ということで断られています。

その後、Kramerはマネージャーを通じて復帰を待って欲しいと伝えました。

こうしたことで1−2か月経過したこともあって、バンド側は、復帰するには、きちんと演奏できるか見たうえで判断する(オーディションを実施する)、という通告を行いました。

そうこうしているうち、上記授賞式にAerosmithの出演が決まり、Kramerはバンド側の要求(メトロノームの合わせてドラムのソロを録音して他のメンバーが評価する)に応えざるを得なくなりました。

2020年1月15日、メンバー及び双方代理人弁護士が電話会議で、Kramerのパフォーマンスが、彼の代替ドラマーと同程度かどうかを議論し、最終的に多数決をとったところ、賛成はKramerのみで、残りの4人は反対しました。

残りのバンドメンバーは、上記授賞式の演奏を成功させるためには、Kramerと7〜14日間程度のリハサールが必要だと主張しました。しかし、この時点では、そうした時間はとれず、Kramerは上記授賞式で演奏できないことになりました。

争点となったのは、契約違反です。

Aerosmithの場合は、5人のメンバーが出資して株式会社を作り、メンバーはAerosmithに雇用される形態をとり、Employment Agreementを締結しています。また、株主5名でStockholders Agreementを締結しています。

この2種類の契約でAerosmithの活動を管理しています。

怪我をした場合の代替メンバーの扱いに関しても明記されていてます。
・メンバーが一時的に怪我して演奏できない場合、バンドは代替メンバーを選定できる
・代替メンバーを選定した場合でも、ツアー等の利益は、休んでいるメンバーに分配する。ただし、代替メンバーの取り分は控除する。

もっとも、一時的な怪我からバンドに復帰する手続は、上記契約には明記されていませんでした。

そこで、Kramerは、過去の事例はいずれも怪我が治癒すれば自然にバンドに復帰しており、復帰のためのオーディションを求めたことはなく、契約上明記されていない手続を要求したことの不当さを訴えました。

裁判所は、契約違反の立証ができなかったとしてKramerの訴えを退けました。

事実関係を踏まえても、オーディション実施を受け入れ、多数決をとっていたりするので、具体的な契約違反を示すのは難しいように思います。

他のバンドメンバーの嫌がらせ?とも思ったのですが、そうでもないようで、バンドメンバーは授賞式にKramerを招待し、授賞式のフォトセッションでは代替メンバーは外して4人で臨んでいます。これを断ったのはKramerのようです。

Kramerのオーディションで録音した演奏は、専門家が聴いたところ、パフォーマンスに問題なし、という意見もあるようですが、50年も一緒にやっていると、微妙な違いというのはメンバーだからこそ感じとれるように思います。

Kramerは裁判所の判断を受け入れ、2月10日のラスベガス公演から、Aerosmithに復帰しています。
こうした経緯を踏まえて、この動画を見ると、バンドっていいな、と思いました。もうみなさん70歳近いですが、元気です。

こんなことで訴訟になるのかとも思えなくもないですが、バンド法務を扱う者としては興味深い事案です。

弁護士大橋卓生