eSportsと肖像とタトゥー(後編)


NBA2kシリーズでパブリシティ権のほかに問題になっているのがタトゥー。

選手の肖像をリアルに再現するとなると、その身体に入ったタトゥーもリアルに再現されますが、そのタトゥーは著作権で保護されることになります。

数年前から、タトゥーアーティストが映画会社やゲーム会社を相手に訴訟を起こしています。著作権は著作物を創作した者に帰属しますので、選手ではなく、タトゥーを彫ったタトゥーアーティストが権利者となります。

米国の著作権法では、表現をtangible media of expression(有形的表現媒体)に固定することが要件とされています。

そこで問題となるのは、人の身体が有形的表現媒体にあたるか、です。

タトゥーを入れた選手としては、後述のレブロン・ジェームス選手のように自分の身体の一部であり、その露出を他人にコントロールされたくないと思うのは理解できるところです。

NBA – Nike ad. Case

調べた中で最も古いものとしては、2005年に、当時NBAのピストンズに所属していたRasheed Wallace選手が出演したNIKEのCMについて、タトゥーアーティストが自分の氏名表示と損害賠償を求めた事案があります。選手の右腕に施されたエジプトをテーマにしたタトゥーが問題となったものです。

タトゥーアーティストは、450ドルで施したようですが、彼が有名なので露出により儲けられると期待していたようです。

この訴訟は最終的に和解によって終わっており、理由や結論は開示されていません。

UFC – UFC Undisputed Case

2012年に、総合格闘技UFCのCarlos Condit選手のタトゥー(左側の選手の右脇腹のライオン)が、THQ社から発売されたビデオゲーム”UFC Undisputed”に使われたとして、タトゥーアーティストがTHQ社を相手に訴訟を提起しました。

訴え提起後にTHQ社が倒産してしまい、破産法廷では、タトゥーアーティストにいくら支払われるべきかが問題となりました。

アーティスト側は、ゲームが410万も売れており、Condit選手が当時ウェルター級暫定王者で人気があったことなどから、4億円超を請求していたようです。

これに対して、裁判所は、THQ社がCondit選手に支払った肖像利用のライセンス料と同額の約250万円くらいと評価しました。

その価格はともかく、思わぬところから、UFCが個々の選手の肖像ライセンス料を明かになり、ちょっとした騒ぎになりました。

NFL – NFL Street Case

2013年、NFLのRicky Williams選手のタトゥーが、大手ゲーム会社Electronic ArtsがPS2等で2004年にリリースした”NFL Street“の中で使われているとして、タトゥーアーティストが訴えたものです。

情報がすくなくて詳細は分かりませんが、和解で終わっているようです。

和解の影響なのかどうかは分かりませんが、この後3年間ほどEAのリリースするNFLゲームからはタトゥーの表現が消えたようです。

Entertainment – Hangover 2 Case

2013年、ワーナーのコメディ映画”ハングオバー2”で、主人公の一人が酔いから醒めると、知らぬ間に顔にマイク・タイソンと同じタトゥーがはいっており、以降、この映画ではそのタトゥーをいれた主人公が登場します。

これに対して、マイク・タイソンにタトゥーを彫ったタトゥーアーティストが映画の公開差止を求めて提訴しました。

仮処分は認められなかったようですが、ワーナー側はビデオ版ではタトゥーを差し替える計画もあったようです。

しかし、すぐに和解が成立したようで、オリジナルを維持しています。ちなみに、この映画にはマイク・タイソンも本人役で出ています。

この訴訟では、米国著作権法の大家ニマー教授が、人の身体は有形的表現媒体に当たらない旨、もし当たるとして人の身体上に著作権の支配を認めるなら、奴隷に対する烙印を禁止した憲法修正13条に反する旨の意見書を提出した、ことでも話題になりました。

裁判所はその意見を”silly”として採用しませんでした。

NBA – NBA2k Case

2016年、Solid Oak Sketches LLCは、Lebron James選手ら数名に彫られたタトゥーの著作権をタトゥーアーティストから取得したうえで、Take-Twoに対し、NBA2kシリーズついて彼のタトゥーが再現されているとして著作権侵害訴訟を提起しました。

訴訟の過程でLebron James選手がTake-Twoを支援する陳述書を提出しています。入手して見てみました。なお、Lebron James選手の身体には多数のタトゥーがありますが、この訴訟で問題になっているのはそのうちの4つのようです。

彼は、それぞれのタトゥーを入れるにあたり、自分の子どものためだったり、出身地に関してだったり、自分の人生に関する重要なことをタトゥーの込めているとのことで、素材を持参してタトゥーアーティストに指示をして彫ってもらっているそう。

彼の理解では、彼の身体に彫られたタトゥーは身体の一部であり、彼のペルソナであり、アイデンティティーだとし、自分の肖像をライセンスする権利は自分にのみあり、タトゥーアーティストにはない、と。

これまでの15年のプロのキャリアで、自分の肖像をライセンスするのに、タトゥーアーティストの許可がいると言われたのは初めてだとも。

レブロン・ジェームズの主張は、米国タトゥー訴訟の論点が凝縮しています。

この訴訟において、Take-Twoは、de minimsの法理の適用やフェアユースを主張しています。

2019年内にはトライアルを行うか否かが決まるようです。

WWE – WWE2k Case

これもTake-Twoが訴えられた事案です。

WWE2kシリーズも、プロレスのWWEをリアルに再現していて人気のあるシリーズです。このシリーズに登場するレスラーRandy Ortonにタトゥーを彫ったタトゥーアーティストが、ゲーム中に自分の財産であるタトゥーが再現されているとして著作権侵害訴訟を提起しています。

和解は不調に終わったようで、2020年4月にトライアルが行われる予定、とのこと。

Entertainment – Cardi B case

ストリートギャング、ストリッパー等を経てヒップホップアーティストとして成功収めたCardi Bですが、2016年にリリースしたアルバム”Gangsta Bitch Music Vol.1″のジャケットが問題となりました。

このジャケットに写っているタトゥーの保有者は一般の会社員です。自分の中に彫ったトラとヘビのタトゥーは、他に同じデザインがないユニークで彼を認識させるものである、主張しています。

この訴訟が興味深い点は、この会社員は、パブリシティ権侵害(やプライバシー侵害)で訴えていることです。Cardi Bのジャケット写真を見た人は、そのタトゥーの男はこの会社員であると認識するなど肖像を不正使用されたというもの。

著作権侵害も主張していますが、タトゥーのデザインの複製を主張していないことから、裁判所はこの主張は成立しないと判断しています。

この訴訟も継続中です。

 

こうした訴訟の増加を踏まえて、NFLやNBAやその選手会は、選手に対して、タトゥーを彫るにあたってタトゥーアーティストから権利を取得したり、権利放棄をしてもらうなど措置をとるよう奨励しているようです。

タトゥーアーティストが著名人に彫ったタトゥーの著作権を持つとすると、たとえば、テレビ出演を差し止めたり、あるいは主演の都度、使用料を要求する、という事態が容易に想定されます。

明確に権利許諾ないし放棄をしてもらうに越したことはありませんが、そうでない場合でも、タトゥーアーティストの権利行使は制限されるべきかなと思います。

たとえば、プロスポーツ選手にタトゥーを彫る場合、その時点で、そのタトゥーが選手の肖像とともに露出することは分かっているはずです。具体的には、試合の出場やスポンサーのCMへの出演、ビデオゲームでの肖像利用など。

こうした通常想定される範囲内の活動について、タトゥーアーティストが権利を行使しないという黙示の合意(いくつかの訴訟で主張されていました)の成立を認めたり、あるいはそうした範囲の可動がタトゥーアーティストの権利行使により阻害されれば、権利濫用ということもいえそうな気がします。

ただ、米国訴訟に関する有識者コメントで、黙示の合意の成立といっても、ビデオゲームのアバターに肖像を利用することまで合意されたというには躊躇がある、というものがありました。

日本で入れ墨著作権が問題になった裁判は1件(東京高判H24.1.31)ありますが、米国のような難しい議論はなく、左大腿部に十一面観音像の入れ墨に著作物性を認めていました。日本では、映画以外の著作物は有形的表現媒体に固定されていることが著作物の要件にはなっておらず、争いがなかったからなのかもしれませんが。

日本ではまだまだ入れ墨/タトゥーは反社とのつながりを想起させ嫌悪の対象になっているように思います。

米国小児科学会のレポートによれば、2010年時点で、19歳から28歳の人の38%が少なくとも1つはタトゥーを入れているようです。

タトゥーを消してくれ事件

最新のタトゥーの話題です。

NBAの往年の名選手Larry Bird(現役時代)が、タトゥーを除去するように求めています。

よく物議を醸している落書きアーティストがスプレーペイントで建物の壁にBirdの肖像画を描いたのですが、その肖像画には無数のタトゥーが描かれていました。

Bird選手はタトゥーを入れていない圧倒的少数の選手の一人でしたので、タトゥーを入れていた選手とみられたくなかったようです。

落書きアーティストはだからこそタトゥーを入れた彼の肖像画は価値があるとして描いたようです。弁護士が入って消す方向で協議しているようです。

弁護士 大橋卓生