eSportsと肖像とタトゥー(前編)


Take-Two Interactive Software(”Take-Two”) といえば、その傘下にRockstar Gamesや2K Gamesなどを有するゲームパブリッシャーです。

Rockstar Gamesといえば、Grand Theft AutoシリーズやRed Dead Redemptionシリーズなど犯罪ゲームで大ヒット作を出しています。GTAVもRDR2もまだクリアできていません。

2K Gamesは、NBA2KシリーズやWWE2kシリーズなどスポーツゲームで大ヒット作を出しています。

NBA2kに関しては、Take-TwoとNBAがジョイントベンチャーとしてeSportsリーグを起ち上げ、NBA所属チームがeSportsチーム組織するという形で運営されています。NBA30チーム中、22チームがNBA2kのeSportsチームを持っています。

NBA2kは、その名のとおり、米国のプロバスケットをビデオゲームにしたスポーツゲームです。登場するチーム名や選手名も本物で、選手の容姿も本物をキャプチャーして作るられているので、NBAを自身がプレーしている感じになります。

NBA2k19をプレーしていますが、なかなかリアルで、解説やハーフタイムショーなどもあり面白いです。ただ、野球ゲームやサッカーゲームと違って、攻守の入れ替わりが早いのとコートが狭いので、操作が大変です。

今年の1月に、NBAやNBAPA(NBA選手会; 選手の肖像を管理)がTake-Twoに、今後7年間で$1.1B(約1171億円)のライセンス契約を締結した、と報道されています。現行のライセンス契約の2倍以上だそうです。ちなみに、2019年度の世界のeSportsの収益が$1.1と報道されています。今後7年間でもっともっと伸びていくと想定しているのでしょう。

eSportsは、外国ではビッグビジネスになっていますが、伝統的なスポーツと異なり、プレーの対象となるビデオゲームが著作物となるので、eSports大会などを開催するには、それに応じたライセンスをゲームパブリッシャーから受ける必要があります。

ゲームパブリッシャーはビデオゲームを作るのに必要な権利を取得しなければなりません。ゲームパブリッシャーが必要な権利を得ていないで、eSportsにビデオゲームを提供した場合、ゲームパブリッシャーだけでなく、eSports大会の主催者も権利侵害で訴えられるおそれがあります。

NBA2k 18では、実際、そうしたリスクが顕在しました。

パブリシティ権問題

選手の氏名や肖像等は、その顧客吸引力を排他的に支配できるパブリシティ権で保護されます。米国では州ごとに異なりますが、パブリシティ権を立法している州は22,23州だったように思います。各州で内容も異なります。

日本では、ピンクレディ事件最高裁判決でパブリシティ権が認められていますが、成文法はありません。

NBA2kに登場するNBAプレーヤーの氏名や肖像等はNBAPAが管理しており、既に述べたとおり、Take-Twoにライセンスをしています。

Phillip Champion(顔は冒頭数秒の部分がわかりやすいです)は、ストリートバスケットボール界で著名で、ニックネーム”Hot Sauce”として知られているそうです。

NBA2k 18のゲームモードの一つ”My Career”(プレーヤーが作成した選手をNBAで成功するよう育てるモード)の中に、NEIGHBORHOODというオープンワールドがあり、その中で3 on 3のストリートバスケットを行うことができます。

この3on3に登場するNon Playableキャラクター(操作できないキャラ)の1人”Hot Sizzles”が、Championに似ているということで、Championは、Take-Twoに対し、パブリシティ権侵害訴訟を、Take-Twoの本社のあるニューヨーク郡裁判所に提起しました。

問題となった”Hot Sizzles”のキャラクター(このプレー動画の8分24秒あたりから登場。モヒカンで黒いユニフォームを着た背番号1のキャラクター)です。

Championがパブリシティ権侵害という根拠としては、彼がSNS上で”Hot Sauce”や”Hot Sizzle”と呼ばれているいることのほか、次の点が類似している、というようです。

  • モヒカンのアフリカ系の若いアメリカ人
  • 真っ白なスニーカーを履いている
  • タンクトップを着ている
  • 白いパイピングのある黒の短パンを履いている
  • 背番号を1をつけ、”Hot Sizzles”と記載している

背番号1については彼のスポンサーが”AND1″(バスケットシューズ等のブランド)であり、”Hot Sizzles”というニックネームと相まって彼を想起する、ということかと思います。

NY州のCivil Rights Lawは50条と51条でパブリシティ権侵害を定めています。50条が刑事責任、51条が民事責任です。

パブリシティ権の対象として、name, portrait, picture or voice[51条のみ]が列挙されています。本件では、name, portrait, pictureが問題となっています。

ゲーム内に登場するアバターが、portrait, pictureに該当するかについて、裁判所は、過去に、リンジー・ローハン(お騒がせ女優)がTake-Twoを相手に提起したパブリシティ権侵害訴訟の判決を引用しています。

Take-TwoのGTAVに登場した次のキャラクターを問題としました(外観だけでなく、背景事情や声も似ているという主張です)。

キャラクター”Lacey Jonas
宣伝広告のイラスト:参考画像①参考画像②

この訴訟で裁判所は、アバターも”portrait”にあたると判断しています。そのうえで、そのアバターが本人と認識されなければ、パブリシティ権侵害はない、としました。

Lacey Joansは、20代そこそこの一般的な女性を描いたもので、ビーチに行く若い女性の外観や特徴を表現したにすぎず、リンジー・ローハンの氏名も写真も使っていない、として非侵害としました。

これを前提に、Championについて、裁判所は、リンジー・ローハンのケースの方が似ていたのに非侵害とされているので、それよりも似ていない本件では、そのキャラクターからChampionを認識しない、としました。

日本では類似のケースとし矢沢永吉パンチコ機事件(東京地裁H17.6.14)があり、似たような判断をしています。

次に、nameですが、裁判所は、フルネームをいい、名字だけでは該当せず、また、本名でなければならず、ビジネスネームやニックネームは該当しない、とかなり限定的に解釈しました。

ただし、芸名については、一般的に知られており、本人を識別するものであれば、例外的に該当するとしました。

そこで、”Hot Sizzle”がChampionを表すnameとして上記要件をいたすかが判断されましたが、そうした証拠が乏しいかったようす。

裁判所は、慎重に、仮に”Hot Sizzle”がChampionのnameに該当したとしても、付随的な使用にすぎないので、いずれにせよ、nameのパブリシティ権も侵害なし、としました。理由としては、ゲーム中の”Hot Sizzlers”は数百人いるNPCの1つでプレーヤーが操作できないこと、そのキャラとゲーム中でバスケットをする以外にユーザーとはインタラクティブな関係にないことなどが挙げられています。

Take-Twoとしては、GTAやNBA2Kシリーズ等の数々の訴訟を通じて、この手のことは、慣れっこなのかもしれません。

大きな組織からライセンスを得たということで、小さなところの権利処理を漏らしてしまうと、こういう問題が生じ得ます。

また、ゲーム映像が精緻になるほど、リアルに再現できるようになりますので、パブリシティ権で保護される範囲が広くなっていくと思います。

タトゥー問題は後編で。

弁護士大橋卓生