サンプリング問題 欧米か!


サンプリングは、ヒップホップとかダンスミュージックなどで使われる音楽の製作技法の一つです。簡単にいえば、既存の楽曲の音源の一部を、自身の楽曲に取り入れる、というもの。

「よくわかる音楽著作権ビジネス」の著者でおなじみの安藤和宏さんの論文(”安藤論文”)に米国でのサンプリング訴訟判例の解説やこれらを基に日本法下でサンプリングの法的考察がまとめられています。とても勉強になります。

2019年7月末に、欧州連合裁判所でもサンプリングに関する興味深い判断が出ました。

米国の近時の事案も含めて紹介します。

Madonna “Vogue”事件

The Salsoul Orchestraの”Ooh, I Love It(Love Break)“の作曲者が、マドンナの1990年のヒット曲”Vogue“において、”Love Break”の音源の一部がサンプリングされて利用されているとして、マドンナらに対して、楽曲及び録音物の著作権侵害で訴えた事案です。

米国には著作隣接権がなく、録音物も著作物として著作権で保護されています。ちなみに、日本では、録音物の無断利用はレコード製作者の著作隣接権や実演家の著作隣接権の問題となります。

侵害を主張している部分は、次のとおりです。

Vogueに出てくるのは、Singleが1回、Doubleが3回だそう。注意して聞かないと聞き逃す感じです。

1審は”de minimis”の法理を適用して侵害なしとし、控訴審9th Cir.もサマリー・ジャッジメントでこれを維持し、マドンナ側には著作権侵害はない、という結論となりました。

de minimsの法理とは「法は些事を顧みない」という法諺で、日本では刑法の窃盗罪で出てきた記憶です。米国では著作権侵害にこの法理が適用されるようです。

楽曲の著作権侵害について、同じくサンプリング事案で楽曲の著作権侵害が問題となったNewton事件(9th Cir.)を引用して、平均的な聴衆がVogueを聴いてもLove Breakからの盗用と認識し得ないと合理的な陪審員は判断するだろうとしてde minimsを適用しました。

録音物の著作権侵害についても同様にde minimisを適用しました。認定の中で、VogueのDouble horn hitは、Love Breakの音源を利用したものでなく、Love BreakからサンプリングしたSingle horn hitをVogueのプロデューサーが加工等をして作ったものとしています。サンプリングしたのはSingle horn hitで、0.23秒です。

ただ、サンプリング事案で録音物の著作権侵害が問題となったBridgeport事件(6th Cir.)では、de minimisの法理を排除したことから、Love Breakの作曲者は同事件の先例を引用して反論していました。

この点、9th Cir.は、Bridgeport事件判決以外で、著作権侵害にde minimis法理を適用しなかったもの知らないし、著作権法の規定でも録音物(Sound Recording)を他の著作物と同様に扱っており、録音物だけ別異の扱いを認める根拠がないなどとして、作曲者の主張を排斥しています。安藤論文によれば、Bridgeport事件の6th Cir.の判事が解釈を誤ったような感じです。

その他米国サンプリング事件

個人的に興味深いのが、Oh Pretty Woman事件です。

原曲はRoy Orbisonの”Oh Pretty Woman“です。これを’80年代に活躍したヒップホップグループの2 Live Crewがパロディ化した”Pretty Woman“を発表しました。

元々、2 Live Crew側はRoy Orbison側に許諾を求めていたのですが、拒否されたという経緯があります。

連邦最高裁まで争って、2 Live Crew側のFair Useを認めて、侵害なし、で終わっています。

ヒップホップ系アーティストは、よくサンプリングを使うので訴訟も多いです。

有名どころでは、Jay-Z、Nicki Minaj、Kanye Westなど訴訟の只中です。Justin Bieberもインディーズアーティストから訴えられていました(裁判外の和解で終わったようです)。

EUサンプリング事件

EU諸国すべての著作権法は知りませんが、著作権情報センターのデータベースを見る限り、フランスやドイツ、イタリアでは著作隣接権制度があり、レコード(録音物)は著作隣接権で保護されることになっています。イギリスは、米国と同様、録音物を著作権で保護しています。いずれにしても、EUはディレクティブで著作権・著作隣接権のハーモナイゼーションが図られています。

欧州連合裁判所(EUJ)は、EU内の法解釈や適用を平等に行うための最高裁的な役割をしていますが、この欧州連合裁判所で、2019年7月に、サンプリングに関する判決が出ました。

もともとの事案は、ドイツのエレクトロ・ポップのパイオニアKraftwerkの1977年の楽曲”Metal on Metal“の一部が、Sabrina Setlurの1997年の楽曲”Nur Mir“にサンプリングされたとしてレコード製作者の著作隣接権侵害を争っていました(予備的に実演家の著作隣接権侵害や楽曲の著作権侵害等も)。

サンプリングされた部分は、約2秒のリズムシークエンスの部分で、”Nur Mir”は、多少アレンジしていますが、当該シークエンスをループさせて使っています。

ドイツ国内では、連邦裁判所では侵害を認め、連邦憲法裁判所では非侵害となったようです。

EUJのサンプリングに関する判断は次のような感じです。

  • レコード製作者の権利は、自分のレコードの音が、どんなに短くても、他のレコード(録音物)の音源として取り込まれることを排除することができる。
  • ただし、サンプリングされた音が耳で認識できない程度に変容されていた場合はこの限りではない。

サンプリングを行うには、大原則として、取り込もうとする音源に関するレコード製作者の許諾が必要ということになります。

ただ、例外も設けられており、「耳で認識できない程度に変容されていた場合」とはどの程度の変容でよいかが不明確であると、有識者から指摘されているところです。

1999年に訴えが提起され、ECJの判決で約20年に亘るようです。ネットの報道を見ると、Kraftwerk側が20年越しで勝訴したように書かれていますが、ECJは解釈を示しただけで、ドイツの連邦裁判所かなんかでこれを踏まえて、この事案の判断が出されるのではないかと思います。

 

大学院で原盤権について教える中で、日本の紛争事案がないので、こうした欧米の紛争事案はとてもよい教材を与えてくれます。

弁護士大橋卓生