マックどーなる


欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、2019年1月に”BIG MAC”、2019年7月”Mc”の商標登録を不使用のため取消すというビックリする判断を出しました。

“BIG MAC”は約21年、”Mc”は約7年、EUIPOで商標登録を維持してきました。

不使用取消を求めたのは、アイルランドのファストフード・バーガーチェーンの”Supermac’s“。経営者は、Pat McDonargh(パット・マクドナー)氏。

きっかけ

話は2016年に遡ります。Supermac’sの欧州展開を目論んだマクドナー氏は、”SUPERMAC’S”をEUIPOに商標登録すべく、商標出願したところ、世界のマクドナルドに異議を申し立てられました。

マクドナルドの主張は、Supermac’sが商標登録しようとしている商品や役務(肉の加工食品、サンドウィッチ類、飲食物を提供する店舗の運営等)には、類似する商標が既に登録されている、というものです。

マクドナルドは、類似する登録商標として、McDONALD’S、Mc、MCMFFIN、BIG MACなど10以上の登録商標を挙げています。

EUIPO異議部は、BIG MACを取りあげ、SUPERMAC’Sの商標との類似性、登録しようとする商品・役務の類似性を検討しました。

商品・役務の類似性では、肉や魚等の加工品というハンバーガーの商標に必要な部分で類似するなど多くの商品・役務が類似する、と判断されました。

商標自体については、日本同様、外観・称呼・観念で類似性を判断しました。ざっくりとした理解ですが・・・

  • “MAC”はゲール語で”〜の息子”を意味する。
  • “SUPERMAC’S”は一体として意味をなさず、消費者は”SUPER”と”MAC”に分けて理解する。
  • “SUPER”は語義から”outstanding”と理解され、”‘S”は所有格として認識される。
  • 名称として認識される部分は”MAC”である。

BIG MACもSUPER MACも”MAC”の外観・称呼が共通し、大きな”MAC”という観念も類似するとして、商標として類似すると判断しました。その他、類似判断に必要とされる要素も検討のうえ、BIG MACと類似するSUPRERMAC’Sは、類似する商品・役務には登録できないとして、マクドナルドの異議は、主要な部分で認められました。他の先行登録商標についても同様の判断です。

その後、Supermac’sは、この決定に異議を申し立てていますが、却下されています。

このため、Superma’sは、EUIPOでハンバーガーに必要な商標登録ができなくなりました。現在EUIPOに登録されているSupermac’sの商標はパンやスナック菓子店ような内容です。

Supermac’sの復讐

2016年に主に判断の対象となった”BIG MAC”や”MAC”を意味する”Mc”がEUIPOに商標登録されているため、欧州進出の夢が絶たれたSupermac’sですが、邪魔になっている”BIG MAC”や”Mc”の商標登録を消してしまおうと考え、不使用取消をEUIPOに申し立てました。

日本の商標法にも登録された商標を3年間使用していなければ、商標登録を取り消せる制度があります。

EUIPOでも同じような制度がありますが、不使用の期間が5年となっています。使用を証明するのは、訴えられた登録商標権者になります。特に欧州連合全域で使用していることを証明する必要はなく、1,2か国で使用していることを証明できれば、取消を防ぐことができるようです。

イギリスやフランスなど欧州連合の国でマクドナルドに行った経験がありますが、BIG MACは普通に使われていた記憶です。

しかし、今回の不使用取消では、EUIPOは、”BIG MAC”も”Mc”も真正な使用の証明が不十分として、Supermac’sの訴えを認める決定をしたため、”BIG MAC”と”Mc”が不使用取消となりました。ただし、マクドナルドが上訴していますので、まだ取り消されていません。

なぜこうなったかヤホーで調べても詳しく分からなかったので、やむなく決定書を取り寄せて、読んでみました。

“BIG MAC”

マクドナルドがEUIPOに提出した使用の証拠は次のとおりです。

  • 独仏英3か国のマクドナルドの代表者の宣誓供述書
  • ビッグマックの宣伝ポスターやパッケージ
  • EU各国のマクドナルドのウェブサイトの写し
  • ウィキペディアの”BIG MAC”ページの写し

EUIPOは、これらの証拠だけでは不十分として、取消を認めたことになります。

宣誓供述書を除く証拠は、使っている、という事実状態を示すものですが、EUIPOが欲しているのは、”BIG MAC”の商標を付した商品が、どの範囲で使用され、その取引規模、期間や頻度はどのくらいか、に関する証拠のようです。取引に使っていることを証明しないと真正な使用とは認めない、という感じでしょうか。

これは上訴して、証拠を追完すれば、”BIG MAC”は維持できそうですね。

“Mc”

“BIG MAC”決定は7頁でしたが、”Mc”決定は18頁もありました。

“Mc”商標の不使用取消は、チキンナゲット、牛肉や豚肉等のサンドイッチ類を除いた、商品(肉、野菜、果物の加工品やケーキ、クッキー、コーヒー、ノンアルコール飲料など)や役務(レストランサービス)において認められています。

マクドナルドがEUIPOに提出した使用の証拠は次のとおりです。

  • 独仏英3か国のマクドナルドの代表者の宣誓供述書
  • EU各国のマクドナルドのウェブサイトの写し
  • “Mc”のついた商標(McCafe、McToastなど)が記載されたパッケージやディスプレー、パンフレットなど
  • “Mc YOUR OWN”の表示の写し
  • Wikipediaのマクドナルドの歴史ページの写し
  • ドイツマクドナルドのCorporate Responsibility Report 2016の写し
  • マクドナルドのアニュアルレポートの抜粋
  • Institute of Trade Mark Agentsが発行する出版物の抜粋(マクドナルドがコカコーラを抜いて世界のトップブランドになったこと)
  • Best Grobal Brandsに掲載されているウェブサイトの写し(マクドナルドが2001〜2016年の間に上位ランクにあること)
  • Brandz.comの写し(マクドナルドが2008〜2916年までファストフードトップ10以内にあること)
  • ドイツで、50%以上の人々が”Mc”からマクドナルドを連想するという調査結果の写し
  • ブダペス、ハンガリーで、90%近くの回答者が”Mc”からマクドナルドを連想するという調査結果の写し
  • 他社が商標登録したMACCOFFEEの取消しを求めた裁判においてマクドナルドの接頭辞”Mc”に権利性を認めた欧州連合裁判所の判決の写し

“BIG MAC”よりも提出証拠は多いのですが、こちらも真正な使用の証明が不十分として取消を認めていますが、”BING MAC”と同じように、どの範囲で使用され、その取引規模、期間や頻度はどのくらいかに関する証拠の不足が指摘されています。

“BIG MAC”決定と同じような感じですが、一点、”Mc”が出所表示機能を果たす形で使用されたことが分かるような証拠がでていないとし、そもそも”Mc”は他の言葉と一体で使われており(McMUFFINなど)、”Mc”だけで使用している証拠がない、ことが指摘されています。

マクドナルドが、Mcの使用として掲げた10の商標について、Mcの使用となるか否かを次のとおり判断しています。

McDONALD’sは、Mcとは別もの。

BIG MACは、Mcとは別もの。

McRIB、McMUFFIN、McTOAST、McFISH、MbWRAP、McNUGGETS、McCHIKENは、Mcに付加された要素は商品ないし主たる材料にすぎず、Mcの使用となる。

McFLURRYは、Mcとは別もの。

マクドナルドは、こちらも上訴して証拠を追完することになりますが、”BIG MAC”ケースとは違って、それでも不使用取消になる部分が出てきそうです。

弁護士大橋卓生