Graffiti – 落書き著作権-


先日、金沢工業大学虎ノ門大学院・コンテンツ&テクノロジー融合研究所主催で「フェイク・アート(贋作、模写)は美術品か?その真の価値とは?」をテーマに開催し、「フェイクアートの法的問題」についてお話をさせていただきました。

その際、テーマが違うのでお話はしませんでしたが、ストリートアート、いわゆるGraftti(落書き)の法的問題を整理しました。

落書きは、街中の建物の壁などに、通常、無許可で描かれる点で法的な問題が生じます。端的に言えば、犯罪行為に該当しえます。

器物損壊罪(刑法261条)・建造物損壊罪(刑法260条)、あるいは条例違反(例えば横浜市、相模原市や千葉市などは落書き行為の禁止に関する条例を制定)、軽犯罪法違反。

この中で、一番重いのは建造物損壊罪で5年以下の懲役です。最高裁判所は、公演の公衆便所の外壁にラッカーで「戦争反対」「反戦」等と大書した事案で、「建物の外観ないし美観を著しく汚損し,原状回復に相当の困難を生じさせ」「その効用を減損させた」として、同罪を適用しています。

また、落書きをするために他人の住居の庭などに侵入する場合は住居侵入罪(130条)も考えられます。

このほか、重要文化財に対する落書きは、文化財保護法違反となり、5年以下の懲役/禁固又は30万円以下の罰金となります。

また、民事的には、不法行為(民法709条)にあたり、建物等の所有者に対し損害賠償責任を負うことになります。

他方、落書きとはいえ、思想又は感情を創作的に表現したものであれば、その表現は著作物として保護されます。著作者・著作権者は、建物の所有者ではなく、落書きをしたアーティストとなります。

こうして落書きは、物理的な面では犯罪行為にあたる一方で、落書き表現という無形的な面では著作権で保護されるという面白い関係が生じます。

特にBanksyの作品など落書きに大きな価値が認められるような場合、法律問題が先鋭化することになります。

落書きをされた建物の所有者が落書きを消すことは、アーティストの著作権を侵害することになるか?

建物の外壁に落書きをした場合、その落書きは建物(不動産)と一体化するので、その所有権は建物所有者に帰属するといえます。

その理屈として①放棄、②贈与、③付合が挙げられることがあります。

ちなみに、付合は、民法242条本文で「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。」と規定されています。複数の物が合成して分離できない状態になった場合、1つの物には1つの所有権しかなりたたないため、その物の所有権者を定めるルールです。

落書きを物理的に分析すれば、ペンキなどの物を従として建物(不動産)に付合(一体化)させることになるで、この規定が働くと考えるものです。

そこまで、精緻に考えなくても、容易に落とせないペンキなどで落書きして建物と一体化している以上、建物の所有権が及ぶと考えればよいと思います

落書きの所有権は、上記の結論になりますが、著作権の帰属は別に考えなければなりません。

著作権は、思想又感情を創作的表現したもの、簡単にいえば表現という無形的なものを保護するものです。この著作権は、作品を創作した者に帰属します。

したがって、落書きの著作権は、落書きを創作したアーティストに帰属することになります。

そこで、建物の所有者が外壁にされた落書きを消す場合、表現も消してしまうことになるため、著作権侵害ではないか、が問題になります。

結論からいえば、落書きを消すことは所有権の行使として可能であり、落書きを消す行為には複製や翻案という表現の再現や改変など著作権の無断利用行為がないため、著作権侵害にはなりません。
同じく表現の改変にもあたらず、表現をなくしてしまうものなので、著作者人格権(同一性保持権)も働かず、その侵害ということにもなりません。

例えば、音楽CDや映画DVDは著作権で保護されていますが、そのCDやDVDを焼却して物理的に滅失させても、そこに録音・録画されていた音楽や映画の著作権や著作者人格権の侵害がないことは明らかです。

量産可能な音楽や映画作品とは異なり、アート作品の場合、一品製作が多く、そのオリジナルに大きな価値が見いだされていることから、違和感のある結論のように思われますが、著作権法の理屈からすれば特段おかしいものではないと思います。
「著作権法逐条講義六訂新版」(加戸守行著)によれば、著作者の精神的利益の観点から、民法の不法行為等による救済は考えられる、とのこと。

なお、有形文化財に指定されているアート作品を破壊した場合は、文化財保護法違反にあたります。

ちなみに、諸外国では著作権法に作品の破壊を制限する規定がある国もあります。

スイスの著作権法には、所有者による著作物の破壊を制限する規定(15条)があります。

米国では著作権法のほかVisual Artists Rights Actで視覚芸術作品の著作者に人格権が認められています。その中で、” work of recognized stature”の作品について破壊が制限されています。

“work of recognized stature”は成文法で定義されていませんが、裁判例によれば、”meritorious work by art experts, other members of the artistic community, or some other cross-section of society”と定義されているようです。

“Graffiti Mecca”(落書きのメッカ)として知られているニューヨーク・クィーンズランドの5Pointzにある建物に描かれていた落書きを白塗りして破壊した事案で、VARA違反に基づき、アーティストらに対して$6.7Mの賠償をするよう命じた裁判例があります。

ただ、これら落書きは建物所有者が許可を出していたため、”work of recognized stature”と認定されたようです。違法な落書きは、”work of recognized stature”とは認定されないと分析されている有識者もいます。

日本の著作権法にはこうした著作物の破壊を制限する規定はなく、所有者に落書きを消されても文句はいえません。

そもそも違法行為により創作した落書きは著作権で保護されるか?

この点、米国において、違法行為によって創作された落書きが著作権法で保護されるか、が議論されています。裁判においてもしばしばし争点になっているようです。

例えば、”Graffiti Artist”Revok” vs H&M事件で、H&Mは、新しいスポーツウェアの宣伝のために映像を作って使用していました。この映像に映っている壁に描かれた線画は、Graffiti Artist”Revok”によって描かれたものでした。このため、H&Mは、Revokから著作権侵害を根拠に提訴されました。これに対して、H&Mは、違法に描かれた落書きであり、著作権で保護されない、という反論を展開しています。結局、和解で終結したので、結論は不明です。

この件以外にも違法な落書きが著作権で保護されるかが争点になった事案はいくつかあるようですが、いずれも和解で終結するなどで判断には踏み込んだものがないようです。

日本の著作権法は、違法に原著作物を翻案して創作して二次的著作物であっても著作権の保護は及ぶたてつけですので、違法行為により創作されたものであっても著作権の保護は及ぶという結論になるように思います。

違法創作したものでも著作権で保護されるとしたうえで、あとは、具体的な事情に応じて、譲渡権の行使が権利濫用になるかどうか、という判断になるのではないでしょうか。ただ、以下に検討するように、建物の所有者が落書きを受入れ、その価値を認めた場合は、原則として違法性は治癒するように思います。

先に示した器物損壊罪や建造物損壊罪は個人の財産を保護するものなので、被害者の承諾があれば、違法性が阻却されると理解されています。

落書きをされた建物の所有者が、その落書きを販売することができるか?

落書きアーティストの持つ著作権には譲渡権があり、原作品・複製物の販売をコントロールすることができます。もっとも一度譲渡を行えば、譲渡権は消尽し、それ以降の譲渡はコントロールできなくなります(著作権法26条の2)。

建物の所有者が落書きを最初に販売する場合に譲渡権が働きますので、譲渡について落書きアーティストの許諾を得なければならないことになります。

前述のとおり、建物の所有者が落書きの価値を認め、それを受入れて、他に販売しようとしているので、著作権を有するアーティストに相応の分配を求めて権利行使をするのは問題ないように思います。

建物の所有者は落書きを販売できるけれど、落書きアーティストの許諾を得なければならないことになろうかと思います。

落書きをコピーした第三者が、そのコピーを販売することができるか?

建物の所有者とは異なり、第三者は落書きに対して所有権も有しません。第三者の行為は、著作物である落書きを複製して販売するという著作権侵害行為です。

権利濫用を論じるまでもなく、落書きアーティストは第三者に対して権利行使ができると思います。

落書きをされた建物の所有者が、その落書きを展示することができるか?

著作権者は、展示権を有しており、美術の著作物の原作品を公に展示する行為をコントロールできます(著作権法25条)。

譲渡権と異なり展示権について日本の著作権法にはの例外が定められています。

美術の著作物の原作品の所有者は、原作品を公に展示することができます(著作権法45条1項)。仮に落書きが著作権で保護されるとしても、建物の所有者は、所有権に基づいて落書きを展示することが可能になります。

落書きは、建物の外壁になされることが多く、その場所が公衆に開放されている屋外の場所または一般公衆の見やすい屋外の場所にあれば、次の場合を除いて、誰でも自由に利用できることになります(著作権法46条)。
①屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
②専らその作品の複製して、写真や絵はがき、ポスターなどを
製作して販売する場合

したがって、落書きアーティストが著作権を有しているとしても、建物所有者は、上記の範囲で落書きを利用することができます。

具体的な展示の仕方については配慮が必要となります。

落書きのある建物の外壁が公道に接している場合、公道を封鎖して対価を払った者だけに落書きを見せる、というやり方はできません。往来妨害罪(刑法124条)や道路交通法違反になってしまいます。自由にみてもらうほかありません(著作権法46条)。あるいは、可能であれば、東京都がしたように、落書きのある部分を取り外して別途展示をすることが考えられます。

落書きのある建物の外壁が私有地の内部にあり、公道と距離がある場合は、他の法律違反のおそれもなく、著作権法45条1項に基づいて、建物所有者が公衆に対して対価を得て展示することは可能と思います。

 

KITセミナーでは、追求権やアンディ・ウォーホルの創作法、DeepFake、クローンアートなどの話がありました。いずれも法的な問題があるところですので、別の機会にまとめてみたいと思います。

弁護士大橋卓生