フィリー・ファナティック、FA宣言して流出か?


MLBフィラデルフィア・フィリーズのマスコットキャラクター”フィリー・ファナティック”(下記写真参照)が、FAを盾に球団と契約の再交渉を巡って紛争が生じています。


(球団訴状より引用)

ヤクルトのつば九郎が似たようなことをやっていますが、ファナティックのは、マジなやつで、法廷闘争に至りました。

何が問題となっているかといいますと、ファナティックの著作権の帰属を巡って球団とファナティックの制作者Harrison/Erickson社(HE社)が揉めているのです。HE社は球団に対し、2020年6月15日までに契約が妥結しない場合、ファナティックをFAにして他球団と交渉する旨通知をしています。

このような事態に至ったのは、米国著作権法上で認められる終了権制度に原因があります。

終了権が設けられたのは、著作物の価値は世に出してみなければ判断することができないこと、このため最初の契約では著作者は低い報酬しか受け取ることができないことから、著作物が世に出て評価された後に、著作者に正当な報酬を受ける2回目の機会を付与するためです。なお、1978年1月1日の著作物に限られています。

具体的には、著作権の譲渡ないしライセンス契約を締結後35年を経過した時から5年間のうちに行使することが可能です。

この終了権は、音楽アーティストが自身が作詞作曲した楽曲の著作権をレコード会社から取り戻すために行使されている例をよく目にします。Bob Dylan,Tom Petty, Bryan Adams, Tom Waitsなどが行使しています。故Princeは、この終了権を見越して所属レコード会社とより有利な契約を交渉で勝ち取っています。

この終了権を行使できない場合の典型が”Work for hire”(職務著作)で、音楽アーティストの終了権行使の紛争では、レコード会社が”Work for hire”を主張して反論しています。

終了権は、音楽の著作物に限らないので、ファナティックのようなキャラクターにも適用があります。

今回は、球団がHE社に対し、終了権が存在しない等Declaratory Judgementを求めたものです。

訴状によれば、ざっくり次のような経緯です。

  • ファナティックは、1978年当時の球団副社長の発案でHE社と開発をしたようです。同年4月には球場デビューしています。
  • 1978年3月に最初の契約を締結。$3900の報酬プラス費用で、ファナティックの製作及びTVCM等での利用権。
  • 1978年6月に追加契約を締結。お土産品への独占的利用権を、年額$5000プラス売上の7%。
  • 球団は、インターンできていた人にファナティックの”中の人”を担当させ、ファナティックに命を与えたこと、この40年間、ファナティックの二次的著作物を製作し、商品化事業を行うなど多額の投資をしてファナティックを人気者にした、という熱い主張をしています。
  • 1979年に球団とHE社でファナティックの著作権トラブル(契約外利用)があり訴訟になったようですが、そこの契約条件を明確にして和解。
  • 1984年に、球団とHE社がファナティックに関して再交渉を行い、HE社が球団にファナティックの著作権を永久に譲渡し、球団はHE社に対価として$215,000(現在価値$533,000)支払う契約を締結。

HE社は、この1984年の著作権譲渡契約について、終了権を行使する、というものです。

球団の主張は多岐に亘っていますが、職務著作の主張はありません。主なものを紹介します。

①終了権制度の趣旨からの反論
終了権は、著作物が世に出て評価された後で、著作者が正当な報酬を得るために、1回に限り、最初の契約を終了させるものです。

球団は、1984年の再交渉によって、HE社は著作物を再評価し、正当な報酬を得たので、もう終了権は行使できない、という趣旨の主張をしています。

個人的には、1984年の再交渉は、最初の契約締結から6年しかたっておらず、法が35年据え置くとした趣旨との関係で球団の主張はどうなのかな、と思いました。

②1984年契約で著作権が永久に譲渡されていること
球団は、1984年契約で著作権を永久に譲渡しているので、終了権は行使できないと主張しています。この主張は、HE社が終了権を放棄したということを含意すると思います。

終了権の解説を読むと、放棄できない、とあるので、この球団の主張も認められるのかな、と思いました。

③ファナティックは球団とHE社の共同著作
球団の主張の中では、これがもっとも説得的に感じました。

1978年当時の球団副社長の発案について、詳細な主張はまだなされていませんが、具体的なイメージを出し、仕様書まで作ってHE社に渡しているようです。球団主張の創作過程の立証が成功すれば、共同著作ということは大いにあるのか、と思いました。

そうすると、1984年契約でHE社から球団に永久譲渡とされたのはHE社の著作権の持分権ということになります。1984年契約にどのように書かれていたかは気にはなります。

④ファナティックは球団の単独著作
これは事実経緯でHE社から権利の許諾を受けたり、譲渡を受けていると球団自ら主張しているのに、実は創作時から単独著作でした、と主張するもので、矛盾した主張に思われます。

⑤HE社のファナティックの著作権登録が虚偽
米国の著作権訴訟は著作権局に著作物として登録しないと提訴できないのですが、球団は、HE社のファナティック著作権登録に虚偽があり無効であるから、これ以上訴訟を進めることはできない、と主張しています。

ファナティックは”costume”(コスチューム)として創作されたのに、HE社は著作権局に”artistic sculpture”(芸術彫刻)で登録しているというもの。

文字で表すと難しい感じですが、要はHE社は中の人が入ったファナティックを著作物として登録しているのに対し、球団は、中の人を抜いた外身だけを取り出して、全然違う、と主張しています。

登録制度に詳しくないので、どう評価されるか分かりませんが、屁理屈の類いに感じます。

⑥球団はファナティックの名称・外観を商標登録している
ファナティックがFAで他球団のマスコットになった場合、他球団が商品化などを行うと、球団の商標と誤認混同が生じ、商標権を侵害する、という主張です。

他球団がファナティックを採用するとは思えませんし、ファナティックを使えなくなった球団がそれを商標として使い続けるとは思えませんので、仮定的な主張のように感じます。

あと10か月でこの訴訟に結論が出るのか、交渉がまとまるのか、この問題から目が離せません。

ところで、広島東洋カープのスラィリーは、HE社がデザインしたもので、ファナティックの兄弟分とか言われています。こっちの方は問題になっていません。

弁護士大橋卓生