Taylor Swiftと原盤


ちょうど、原盤権の授業をしていたところに、テイラー・スウィフトの原盤トラブルのニュースを見つけました。

彼女が所属していた”Big Machine Label Group”が、Scooter Braunによって買収されました(2018年11月にUniversal Music Groupに移籍)。

Big Machine Label Groupは、ナッシュビルのカントリー系のレコード会社のようで、テイラー・スウィフトは、同社CEOのScott Borchettaに見いだされたようです。
アルバム”Reputation”、”Taylor Swift”、”1989″や”RED”など6枚が、この会社からリリースされています。

買収したScooter Braunは、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデ、カニエ・ウェストなどのマネージャーを務めたり、音楽プロデューサーなどの活動している投資家だそう。

詳しくはよく分かりませんが、Scooter Braunとテイラー・スウィフトは、以前から論争をしている犬猿の間柄のようです。

そんな相手が、自分の過去のアルバム6作の原盤権を持つレコード会社を買収されたので、テイラー・スウィフトは抗議したようです。

テイラー・スウィフトは、買収の際に、自分の原盤を購入する機会が与えられなかった、とレコード会社の方にも抗議をしているようです。

これが法的な争いになるか否かは、テイラー・スウィフトとBig Machine Label Groupとのレコーディング契約の内容によると思いますが、THRの顧問弁護士は、”There’s no key man clause in these recording agreements”ということで、テイラー・スウィフトに勝ち目はない、とコメントしています。

ソロアーティストのレコーディング契約で”Key man clause”がいまいち想像がつきませんでした。

米国のアーティストが個人のマネージャーをつける際に”Key man clause”(特定の個人が会社を辞めたらマネジメント契約を解除する)を盛り込んだり、バンドとレコード会社がレコーディング契約を締結する際に”Key man clause”(バンドのキーメンバーが脱退したら契約を解除する)を盛り込むことは、実務の教科書にも書かれています。

おそらく、ここでいうkey man clauseというのは、Big Machine Label GroupのCEOがScott Borchettaから他の人に変更になる場合に、レコード会社が保有する彼女の原盤に関する権利の譲渡を制限する条項なのでしょう。

CDや廃止の音源となるMaster Recordingはレコード会社がリスクマネーを負担して制作するので、レコード会社がその権利を保有します。レコーディング契約で制限をしていない限り、レコード会社の資産ですので、自由に利用することできます。

テイラー・スウィフトも、論敵の手に自分の過去のアルバムの原盤が渡ってしまい、不利益に扱われるのではないかと懸念したことは理解できます。

彼女がSNSを通じてこの問題を拡散したことから、公衆のプレッシャーがあるから、Scooter Braunも彼女の作品の利用に慎重にならざるを得ないだろう、と見方もあるようです。

ちなみに、アメリカでは、Sound Recordingは、著作権で保護されます。そして、1976年の著作権改正で認められた、著作権契約から35年後に契約取消をして楽曲や原盤の権利を取り戻せる制度が存在します。

こうした制度を後ろ盾にアーティストがレコード会社と交渉をして権利を取り戻す例が多々あるようです。
故プリンスやジャネット・ジャクソン

がこの制度を使って”Purple Rain”などの権利を取り戻したことがあります。テイラー・スウィフトがこの権利を行使できるのはまだまだ先ですが。

テイラー・スウィフトくらいのアーティストになれば、自分の過去の作品の原盤を買い取ることは可能と思います。そうだとしても、契約上、買取権を設けてなければ、レコード会社とはお願いベースで交渉するほかありません。
他方、レコード会社にとって各アーティストの原盤は、レコード会社に不可欠な資産であるレコードカタログの一部を構成するものですので、そうそう簡単に手放せません。

今回のBig Machine Label Groupの買収額は、$300M超(325億円)で、テイラー・スウィフトの作品がなければ、もっと低価格になったであろうと報道されています。

かつて日本でも、宇多田ヒカルが、米国Universalから、本人の意図しないベスト盤がリリースされた、ということで不買を訴えたことがありました。

日本のアーティストも過去の自分の作品が、自分の意図しないところで利用されるというリスクは抱えており、他人ごとではない問題です。

今後の展開に目が離せません。

弁護士 大橋卓生