CAS 聴聞公開へ


クラウディア・ペヒシュタイン選手は、ドイツのスピードスケート選手です。’94年リレハンメルから’06年トリノまで4大会連続で金メダルを獲得するなどレジェンドといえる選手です。46歳ですが、現役で、’18年平昌オリンピックにも出場し、入賞を果たしています。

都合7大会に出場していますが、’10年バンクーバーには出場していません。これは’09年に国際スケート連盟(ISU)からドーピング違反と認定され、2年間の資格停止処分が課されたからです。

このドーピング違反は、ドーピング検査で禁止物質がみつかったものではありません。アスリート・バイオロジカルパスポートという一定期間の生体マーカーを観察し、生理学的にありえない数値の変化からドーピング違反を検出する方法でドーピング違反と認定されたものです。

国際的な競技者のドーピング違反は、国際競技連盟(ペヒシュタイン選手の場合ISU)が判断を行い、それに不服がある場合にスポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服申立をすることができるという仕組みです。

ペヒシュタイン選手は、ISU及びCASにおいて、生来的な遺伝子異常によるものと主張して争いましたが、その主張は通らず、2年間の資格停止処分が確定しました。

仲裁は、両当事者の合意で国の司法機関である裁判所ではなく、当事者が合意する裁判外の機関で紛争を解決するものですので、仲裁判断に不服がある場合に国の裁判所に不服申立をすることができないのが原則です。

ただし、手続違反等一定の場合には司法機関である裁判所に提訴が可能です。

ペヒシュタイン選手は、CASのあるスイスの裁判所、自国ドイツの裁判所で争いました。スイスの裁判所ではCASにおける手続違背を争点としたようですが、訴えが退けられています。ドイツの裁判所ではCASの仲裁判断による資格停止処分によって被った損害賠償をISU等に請求したものですが、現在、ドイツの最高裁判所で審理中のようです。

上記以外に、ペヒシュタイン選手は、欧州人権裁判所(ECHR)に、CASの仲裁人選定の仕組みが競技団体有利であることや公開の聴聞の欠如など問題として訴えを提起していました。

ECHRは、提訴から約8年を経て、この10月2日に結論を下しました。

結果的には、ペヒシュタイン選手の主張は通りませんでした。

ただ、ECHRは、CASの仲裁においてペヒシュタイン選手に公開の聴聞を実施しなかった点で、欧州人権条約6条1項違反を認め、スイスに8000ユーロ(約100万円)の賠償金を命じています。

欧州人権条約6条1項は、次のような規定です。

In determination of civil rights and obligations or of any criminal charge against him, everyone is entitled to a fair and public hearing within a reasonable time by an independent and impartial tribunal established by law. Judgment shall be pronounced publicly but the press and public may be excluded from all or part of the trial in the interests of morals, public order or national security in a democratic society, where the interests of juveniles or the protection of the private life of the parties so require, or to the extent strictly necessary in the opinion of the court in special circumstances where publicity would prejudice the interests of justice.

刑事責任に限定されているように読めますが、ECHRは、懲戒処分にも適用されると解釈しているようです。

この判決を受けて、CASは、広い施設に移転後、公開聴聞に対応する等の声明を出しています。非公開が原則の仲裁ですが、欧州人権条約との関係で、公開が原則になっていくのでしょうか。

なお、ペヒシュタイン選手は、この判決に対して上訴するとのことです。

弁護士 大橋卓生