令和のボスマン判決!? ISU vs EU Commission(T93/18)


日本国内ではたいして騒ぎになっていません。EUでの出来事ですし、東京オリパラがどうなるかが気がかりですし、わかります。

ボスマン判決もベルギーの2部リーグでの出来事でしたが、EU内での判決結果、FIFAが移籍金制度を撤廃し、数年後に日本のJリーグでも同様のルール改正に至りました。

今回の判決は、国際大会の承認権限を独占する国際スケート連盟が、その承認していない大会に選手が出場した場合に制裁を科すという資格ルールについて、EU競争法(TFEU101条)違反とされました。

IFやNFが承認していない大会に参加した選手に対して制裁を科す(IF・NFの公式大会への出場資格制限等)というルールを採用している団体は多いのではないかと思われます。

こうした制裁を科すことができないとすれば、アスリートはIFやNFが承認していない大会に自由に参加できることになります。

  1. 事案の概要

ISUは、傘下の選手に対し、ISUその加盟国NFが承認していない大会に出場した場合に制裁を科す、という「資格ルール」を有しています。

2014年当時の資格ルールは、資格ルールに違反した場合、資格を喪失する、特に、ISU未承認大会に参加した場合は復権手続の適用はない、とされていました。すなわち、未承認大会への出場は永久失格に相当する内容となっていました。

2016 年に資格ルールが改正され、違反の程度に応じてけん責から永久失格が科せられ、永久失格の場合は15年経過して復権手続が適用されることになりました。

2014年に、韓国のIcederby社が、ドバイでスピードスケートの国際大会(賞金付き。ISUにはないフォーマットの大会。ベッティングが合法の国でベッティングの対象とする)を開催しようとしたところ、ISUは、ベッティングに関係しているとしてこの大会を承認しませんでした。同年にISUは、加盟国NFに対し、倫理規程の賭博禁止についてリマインドしていました。

その結果、ISU傘下の選手たちは制裁を受けるおそれがあるため、Icederby社の国際大会への出場を見合わせることになり、結局、選手を確保することができずに、大会は中止となりました。

2016年に、Icederby社は、オランダで同様の国際大会(ただしベッティングはなし)を予定しました。ISUは、承認をしたのですが、国際大会としてではなくクラブ対抗戦としてのようです。結局、この大会は開催されませんでした。

こうした経緯を受けて、オランダのプロ・スピードスケーター2名は、賞金を得る機会を失ったことを不服として、欧州委員会(EU Commission;EUC)に対し、ISUが承認しない大会に参加したアスリート等に永久失格を科すISUの資格ルールは、欧州機能条約(TFEU)101条・102条に違反すると不服を申立てました。

  1. EUCの決定(AT.40208)

EUCは、TFEU101条の問題として、主として次の決定をしました。

  • ISU資格ルールはTFEU101条に違反する
  • ISUルールで不服申立をCASにすることを義務づける条項は競争法違反とはいえないが、資格ルールとあいまって、競争制限及びISUの潜在的競争相手の排除を強化している
  • 上記ルールの是正

TFEU101条は、次のような規定です。

Article 101, TFEC
1.  The following shall be prohibited as incompatible with the internal market:
all agreements between undertakings, decisions by associations of undertakings and concerted practices which may affect trade between Member States and which have as their object or effect the prevention, restriction or distortion of competition within the internal market, and in particular those which:
(a)   directly or indirectly fix purchase or selling prices or any other trading conditions;
(b)   limit or control production, markets, technical development, or investment;
(c)   share markets or sources of supply;
(d)  apply dissimilar conditions to equivalent transactions with other trading parties, thereby placing them at a competitive disadvantage;
(e)  make the conclusion of contracts subject to acceptance by the other parties of supplementary obligations which, by their nature or according to commercial usage, have no connection with the subject of such contracts.

目的または効果において競争を制限する共同行為(事業者間協定、事業者団体の決定、協調的行為)を規制するものです。

EUCは、対象となる市場を、the organisation and commercial exploitation of speed skating events(スピードスケートイベントの組織及び商業利用)からなる、としました。

ドイツのカルテル庁が、オリンピック憲章のRule40をTFEU101条違反とした際も、そのように同じように捉えていました。

ISUは、全世界においてスピードスケートの統括団体で国際大会開催の承認権限や開催権限を独占していますので、上記のように市場を設定されれば、その市場でのISUの力が強大なものとなります。

これに対して、ISUは、商業利用のための氷上のスポーツ又はスピードスケートイベントの組織を対象となる市場の範囲を広くとる主張をしましたが、認められませんでした。特に、EUCは、大会の組織とその商業利用(チケット販売や放映権販売等)は相互補完の関係にあるとしました。

また、市場の地理的範囲は、全世界です。これドイツのカルテル庁のRule40決定と同様の認定です。

そうして、そうした市場でのISUの地位は、全世界で唯一のスピードスケートの統括団体として、国際スピードスケートイベントの組織と商業利用の世界市場において中心的な役割を果たしている、と認定しています。

ISUは、加盟国NFで構成される事業者団体であり、資格ルールは、事業者団体の決定(decisions by associations of undertakings)にあたるとしています。

そうして、資格ルールは、プロのスピードスケーターが自由に第三者が主催する国際大会に参加できなくしており、それゆえ潜在的な大会主催者を排斥するものであること等から、目的において競争制限的であると認定し、TFEU101条違反を導いています。

なお、ISUは、資格ルールはスポーツインテグリティの保護など正当な目的を有しており、競争制限を正当化する旨主張しました。しかし、EUCは、経済的な利益の確保を含むものであり、すべてが競争制限を正当化するものではない、と認定しています。

CASについては、理由部分が秘密とされ開示されていませんが、前述のとおり、競争制限を補強するものと判断しています。当時の報道みますと、CASはスイス法に基づいて設置・運用されており、EU法の適用外のため、EU圏のアスリートが有効な司法上の保護が受けられるか、という懸念のようです。ムトゥやペヒシュタインケースのようにCASの独立性等が問題とされたものではないようです。

  1. European General Court(EGC)の判決

ISU資格ルールがTFEU101条に違反することについて、EGCは、EUCの決定を支持しました。

他方、CAS仲裁の強制について、EGCは、EUCの決定を棄却し、EU競争法に違反しないと判断しました。理由は以下のような感じです。

  • CASは、スポーツの特殊な性質を踏まえ正当な利益により基礎づけられている。
  • 欧州人権裁判所の決定(ムトゥやペイヒシュタインの事案と思われます)を引用するなど専門的な国際仲裁機関と認められる。
  • アスリートは資格ルール違反のペナルティについては司法機関に提訴できないとしても、損害賠償はEU内の司法裁判所に提訴することは可能であり、当該司法機関はCASの裁定に法的拘束されるものではない。

 

以上のように、オリンピックなどIFの公式大会への出場資格を失うという制裁を科して第三者主催の大会への参加を禁止することが違法とされました。

最近の報道を見ますと、ドイツのレスリング協会が第三者主催の大会への出場を禁止した事案(違反すればオリンピック等の参加資格を失うという制裁あり)において、このEGC判決を先例として引用して、当該禁止措置を違法と判断したようです。

この関係で注目されているのは、ヨーロッパのビッグサッカークラブ(Real, Barca, Man U, Milan等)で構成する”European Super League”構想です。

FIFAは、2021年1月21日、UEFAなど傘下の6大陸連盟と共同で、当該リーグに関与した選手はFIFA World Cup等公式国際大会の出場資格を失う旨の声明を出しましたが、このEGC判決の適用を懸念されています。

ちなみに、過去に、ISUに代わるフィギュアスケートのIFとしてWorld Skating Federationの設立が試みられ、失敗に終わった事案で、ISUは、これに関与した6名の役員を資格ルール違反として資格を喪失させました。このISUの対応について、EUCは、その決定の中で、ISUが競合相手を排除する意図を有することの理由付けに用いられていました。

EGC判決は、EU圏内の話ではあります。
しかし、EU圏内のアスリートのみ自由に様々な大会に参加できて、それ以外の地域のアスリートはIFの資格ルールに制裁付きで縛られるというのは、明らかに不公平です。この判決が確定すれば、ゆくゆくはすべてのIFで第三者主催の大会への自由参加が解放されていくことになるように思われます。

この件やドイツカルテル庁のRule40事案もそうですが、スポーツの特殊性と競争法の関係は複雑ですね。

弁護士大橋卓生