UEFA チャンピオンズリーグ新シーズンとCovid-19ルール – CAS 2020/A/7356 –


欧州では、新シーズン(2020/2021)が開幕しました。コロナ渦が収まらない現況で、どのリーグもコロナ対策ルールを設けて対応しています。

セリエAでは、ユヴェントス対ナポリ戦が、ナポリの選手やスタッフに感染者が出たことで遠征が止められて、中止になるというニュースがありました。

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも同じようなことが生じており、新コロナ対策ルールの適用をめぐって争いがありました。

UEFAはCL新シーズンに先だって、2020年7月15日に、既存のルールよりも優先するものとして、Covid-19特別ルール(コロナ新ルール)を設けました(Annex I)。主な内容は次のとおりです。

  • UEFAは、各試合の前に、国境閉鎖や隔離義務などの国家間の旅行制限(travel restricitions)情報を公表する
  • クラブは、試合の2日前の24時までに、当該国の協会や政府と協議して、当該旅行制限が適用されるか否か、または従前知られていないクラブの移動に影響を与えるような制限が課される場合はその旨をUEFAに書面で通知する(以上I.1.1)
  • UEFAが公開している以外に試合の開催に影響を与える制限について、クラブが上記の通知を怠り、試合を開催できない場合、当該クラブがその責任を負い、UEFAは当該クラブの不戦敗を宣言し、3-0で当該クラブの負けとする(I.1.2)
  • クラブの選手や役職員の1人以上がUEFAプロトコルで要求されるCovid-19検査で陽性となった場合、試合が行われる国/地方自治体が選手の大部分又はチーム全体の隔離を要求しない限り、試合は予定どおり開催する
  • Aリストに登録されている13人以上の選手(少なくとも1人のゴールキーパー含む)がプレー可能な場合、試合は予定どおり実施しなければならない
  • Aリストに登録されている選手が13人未満の場合又は登録されているゴールキーパーがプレーできない場合で、UEFAは、I.3.1に定める期限の範囲で試合を延期することを許可できる
  • I.3.1に定める期限内に試合ができない場合、試合ができないクラブが責任を負い、UEFAは当該クラブの不戦敗を宣言し、3-0で当該クラブの負けとする(以上I.2.1)
  • チャンピオンズリーグの予選1回戦の開催期限は、2020年8月21日とする(I.3.1)
  • この規則の適用又はこの規則に基づくUEFAの決定に対する不服申立の時間制限(I.4.1)

《概要》

今回問題となったのは、CL予選1回戦で、2020年8月19日18時開催予定だったŠK Slovan Bratislava(SK;スロバキアのプロクラブ)対KÍ Klaksvík(KL;フェロー諸島のプロクラブ) の試合で、Klaksvíkのホームゲーム(フェロー諸島で開催)でした。

2020.8.17
SKのトップチームがスロバキアからフェロー諸島へチャーター機で移動
到着直後にチーム全員が現地法で義務付けられたCovid-19の検査を実施

2020.8.18
検査の結果、チームの理学療法士が陽性と判明し、フェロー諸島保険機関は、SKチーム全体に対し、14日間の隔離か乗ってきたチャーター機で帰国することを要請(第1隔離決定)

2020.8.19
SKは、UEFAに対し、新ルールに従って試合に参加できる選手を準備するとして、1回戦の実施期限である8月21日に試合を延期することを要請し、受理された

2020.8.20
SKの第2チームがフェロー諸島に到着し、Covid-19検査を実施したところ、選手のうち1名が陽性と判明
フェロー諸島保険機関は、14日間の隔離か乗ってきたチャーター機で帰国することを要請(第1隔離決定)
また、当該選手の再検査も提案した

2020.8.21
当該選手の再検査をするも陽性となり、結局、SKチームはフェロー諸島に入国できず、試合ができなかった
SKは、UEFAに対し、試合ができなかったのは、KLが入国時に検査があり、陽性の場合に隔離されることになるという情報をUEFAに知らせておらず、SKがそうした情報を知り得なかった旨のレターを送付

2020.8.21
SKは、UEFAから懲戒手続を実施する旨通知を受けた

2020.8.24
UEFA上訴機関は、SKを不戦敗とし、3-0でSKの負け、と宣言した

この決定に対し、SKは、UEFAとKLを相手取り、CASに上訴をしました。
上訴の趣旨は、UEFA上訴期間の決定の取消のほか、SKのCLへの復帰(既に2回戦まで終わっているので3回戦から)を求めるものでした。

《CAS判断》

細かな争点はさておき、メインは、UEFA上訴機関の決定の取消の可否です。

SKの不戦敗は、フェロー諸島の入国審査でチームの一部にCovid-19陽性が出て14日の隔離期間を経ないと入国できず、8月21日の試合に選手を揃えることができなったことが原因です(I.2.1違反)。

これに対し、SKは、そういう制限があることをKLがUEFAに通知しておらず、SKがそうした制限を知らなかったからで、責任はKLにあるというもの(I.1.1違反)。

コロナ新ルールの条項の細かな解釈になりますが、要は、”travel restrictions”と”travel conditions”の言葉の意味に尽きることになります。結論としては、UEFAの解釈を仲裁人が支持した感じです。

コロナ新ルールI.1.1でクラブがUEFAに提供すべき情報は”travel restrictions”でI1.1にも例示されていますが、国境閉鎖や隔離の義務付けなどすべての旅行者に適用される旅行制限に関する情報を意図しています。

入国審査におけるCovid-19検査の義務付自体は、旅行を制限するものではなく、パスポートなどIDの提示が求められるのと同じで、旅行の条件(travel conditions)に過ぎない、と。

UEFAのCovid-19に関するReturn to play protocolにも、試合開催地の現地機関が求めた場合、追加で検査を受けなければならず、チームは空港における検査に対応するよう準備しなければならない、と規定されてもいます。

また、実際、スロバキアからフェロー諸島への旅行は自由にできていたようです。

追記で書かれていた理由がとても説得力がありました。

仮に空港におけるCovid-19検査が義務付けられており、陽性が出た場合は14日隔離されることをSKが事前に知っていば、SKが延期された8月21日の試合に出場できたとする因果関係はない。
試合ができなかったのはSKの選手等に陽性が出たことであって、情報の有無は関係がない、と。

 

ところで、UEFAの決定の当否を争うのに、問題の試合の相手方であったKLが当事者として訴えられたことが理解できませんでした。一応、SKの主張では、KLのルール違反が原因だ、ということなのですが、KL側としてはもらい事故みたいな感じですね。
彼らも困惑したものと思いますが、答弁はとてもシンプルで、UEFAの懲戒手続に関与していない、UEFAルールに違反していない、というものでした。

ワクチンや治療薬が確立するまで、スポーツもエンタテインメントもコロナウィルス感染の可能性を踏まえて対策を立てていくほかない状況で、こうしたルールについても試行錯誤を繰り返して洗練されていくのでしょう。

CLにチャレンジしていたSKにとっては、2回連続で陽性者が出るという不運に見舞われましたが、今後は、こうしたこと事態が起こりうる前提で移動計画を立てることが必要と思います。

国際移動でチャーター機を使うと、その分費用がかかってしまいますが、チームメンバーを何組かに分けて移動することを考える必要があるように思います。

弁護士大橋卓生