Banksy “Flower Bomber”商標とEUIPO


以下の作品は、2003年にパレスチナのベツレヘムの壁に描かれた”Flower Bomber”とか”Flower Thrower”とか”Love is in the Air”などと呼ばれている作品です。Banksyを代理する会社Pest Control Office Limited社(UK)は、2014年に上記作品をEUIPO(欧州連合知的財産庁)に商標登録の申請をし、登録されていました。主として次のような商品やサービスを指定していました。

塗料、サングラス、録音済CD、娯楽目的のコンピュータゲーム、印刷物、ステーショナリー、写真、ポスター、書籍、ハンドバッグ、財布、鞄、建築素材、衣服、カーペット、おもちゃ、教育・訓練、娯楽、美術展、アートワークデザイン等

バンクシーは、著書”Wall and Piece”の中で、”Copyright is for losers”と述べていて、著作権その他知的財産権を嫌悪しているようです。

ピカソは、“good artists copy; great artists steal”と述べたようですが、芸術家はそういうところには寛容なのでしょうか。

もっとも、バンクシーも無許諾の商業利用については止めたいと考えているようで、上記のように作品を商標登録して、商標権侵害で対応を試みています。

実際、2018年にイタリア・ミラノで開催されたバンクシーの展示会に対して、Pest Control社は商標権侵害で差止めを試みました。

結果としては、ミラノの裁判所は、展示館でのバンクシーの名前や写真の使用は商標的使用ではないとして商標権侵害を否定しましたが、バンクシーの氏名を用いたマーチャンダイジングについては商標権侵害と判断しています。

話をEUIPOの方に戻しますと、ミラノの裁判所の判断も影響したのかもしれませんが、EUIPOに登録した上記商標について、2019年に、グリーティングカード等を製作している会社Full Color Black社(UK) がこの商標登録の無効をEUIPOに訴えました。この会社は、バンクシー作品のマーチャンダイジングも手がけています。

Full Color Black社は、バンクシーは、自分の作品を商標として使う意図はなく、ただ著作権の代わりに商標権を用いているにすぎないとし、商標登録申請時もそうした意図であり、EU Trade Mark Regulation(EUTMR)59条1項(b)の悪意(bad faith)ある行為に該当するとして、登録の無効を主張しました。

EUTMR 59.1.(b)

1. An EU trade mark shall be declared invalid on application to the Office or on the basis of a counterclaim in infringement proceedings:
(b) where the applicant was acting in bad faith when he filed the application for the trade mark.

EUTMRには”bad faith”の定義は設けられていません。
EUIPOは、先例を踏まえて、客観的な事実を評価し、出願人の行動が倫理的な行動または誠実な商業的ビジネス的慣行の承認されている原則から逸脱する場合に、”悪意”がある、としています。

具体的には、使用の意思が商標出願については悪意と評価されるとしています。

もっとも、日本もそうですが、EUも登録主義をとっていて、商標を使用していなくても出願して登録することが認められます。
商標登録された後、その商標を一定期間(EUでは5年間)使用していなければ不使用取消審判によって登録が取り消されるという制度をとっています。

ですので、出願時にその商標を使用した経済的活動を行っていないという事実だけでは判断できません。EUIPOは先例から、第三者の利益を既存する意図があるとか商標としての機能以外で独占権を得る意図があるという事情を必要とする、とします。

EUIPOが認定した主な事実としては・・・

  • バンクシーが次のように述べていたこと
    “copyright is for losers”
    “Any advert in public space that gives you no choice whether you see it or not is yours. It’s yours to take, re-arrange and re-use’”
  • バンクシーは営利利用を除き自分の作品を広く公衆に利用させていること
  • 商標出願前も後も、多くの会社が出願した作品を含めて商品化していたこと
  • バンクシーもPest Control社も、出願時に、出願商標を用いた商品化を行っておらず、訴えが提起されるまで当該商品化をした事実はないこと
  • 訴え提起後にバンクシーはオンラインストアを開設したが、複数の雑誌に掲載された彼自身の言葉によれば、不使用を回避するために商標を使用していることを示したに過ぎないこと

バンクシーが匿名性を維持し、他人の所有物に落書きしたり、知的財産法を嫌悪する発言をしたりすることは、著作権や商標権を無効にするものではないが、匿名性を維持することは作品の疑いなきオーナーであることを特定できなくしていると指摘し、今回の商標登録申請は著作権に頼ることができないバンクシーのためになされたもので、それは商標権の機能ではない、としました。「商標としての機能以外で独占権を得る意図」があるという判断と思われます。

EUIPOは、出願時に商標使用の意思がなかったと認定し、出願時に悪意あり、ということで、無効を宣言しました。

口は災いの元という印象です。
著作権を使用せずに、営利目的での作品の無断利用を抑えるために商標を使用としたことが、商標として使用する意思はないとされ、悪意と認定されたものと思います。

福井健策先生が指摘される”疑似著作権“的な利用の問題のように思われます。

EUIPOには”Flower Bomber”以外にもたくさんのバンクシー作品(ねずみとか少女ものなど)が商標登録されていますし、この”Flower Bomber”も別途商標登録されています。これらの商標登録はどうなるでしょうか。

また、EUIPOで商標登録を前提に米国USTPOにもバンクシー作品が商標登録されています。米国までこの争いが及ぶのか今後注目したいと思います。

なお、日本の登録状況を見ようと思いましたら、連休でサイトがメンテナンスに入ってました。。。

ところで、日本の商標法には、悪意ある出願について、明文規定はありません。
しかしながら、商標法の各種規定から、使用意思のない商標出願の登録を拒絶したり(3条1項本文)、第三者の利益を害するような場合は公序良俗に反する商標(4条1項7号)とか、不正目的(4条1項19号)等で対応できるとされています。

使用意思がないと判断する場合は、商標審査基準によれば、指摘商品・役務を広範に指定した場合で使用意思を裏付ける証拠の提出が求められることになります。

悪意ある出願に関しては、国際的に検討されているようです。
日中韓米欧の特許庁的な機関の共同プロジェクトとして”TM5 Bad Faith Project”(日本の特許庁主導)がありました。事例がImmoral, Free Ride, Lack of Intention to Useに区分けされており、このあたりを悪意出願という考えているように思います。

弁護士大橋卓生