プールスイマー(ペルー)ドーピング事案:FINA2020.8.19


ロンドン五輪のペルー代表だったペルーの水泳選手のドーピング事案です。これが2度目の違反となります。

最初の違反は、2016年です。
2015年のパンアメリカ大会で実施されたドーピング検査で検体からS1のスタノゾロール(アナボリックステイロド)が検出され、4年の資格停止が課されています(CASに上訴するも棄却)。
最初の資格停止期間の4年は、2019年7月11日に終了しています。

ペルー水泳協会は、この選手を2019年7月26日〜8月11日にペルーで開催されたパンアメリカ大会のペルー代表として選出していますが、次のとおりすぐにドーピング違反が発覚しました。

2019年6月30日 競技会外検査(検体1)
2019年7月7日 競技会外検査(検体2)
2019年7月12日 競技会検査(検体3)

2019年7月31日にFINAはこの選手に対して検体1および検体2のAAF(違反が疑われる分析報告)を通知した。

2019年8月3日には暫定的資格停止になっていますので、復帰してから1か月も経たないうちに競技ができなくなっています。

2019年8月30日 競技会外検査(検体4)
2019年9月1日 競技会外検査(検体5)
2019年9月17日 競技会外検査(検体6)

検体1〜6のすべてから禁止物資のスタノゾロールが検出されています。なお、検体1,2はB検体も検査し陽性、検体3〜6は選手がB検体検査権を放棄しました。

この事案で、興味深い論点は、上記6つの陽性が1つの違反となるか否かという点です。

FINA DCR10.7.4.1では次のように規定されています。

For purposes of imposing sanctions under DC 10.7, an anti-doping rule violation will only be considered a second violation if FINA or a Member Federation can establish that the Athlete or other Person committed the second anti-doping rule violation after the Athlete or other Person received notice pursuant to DC 7, or after FINA or a Member Federation made reasonable efforts to give notice of the first anti-doping rule violation; if FINA or a Member Federation cannot establish this, the violations shall be considered together as one single first violation, and the sanction imposed shall be based on the violation that carries the more severe sanction.

パネルは、2019年7月31日に選手に通知されたAAF(検体1,2に関するもの)を最初のAAF通知ととらえ、7月31日より前に採取された検体1〜3については、DC10.7.4.1の文言から1つの違反と扱わなければならないのは明らかである、としました。

“an anti-doping rule violation will only be considered a second violation if FINA ・・・ can establish that the Athlete・・・ committed the second anti-doping rule violation after the Athlete received notice to DC7”

この部分の文言ですが、ぱっと読むと「選手が7条に基づく通知を受けた後に、選手が2回目のアンチドーピング規則違反(the second anti-doping rule violation)を行ったことをFINAが証明できた場合にのみ、アンチドーピング規則違反は2回目の違反(a second violation)とされる」と理解してしまい、何を言っているのかよく分かりません。

JADAのHPに掲載されているWADACの同じ条項の和訳を見ますと赤字部分は「別のアンチドーピング規則違反」とされていました。赤字部分と青字部分は英語でも表現が変わっている点に気を付けなければならないですね。

個人的には、この部分の訳は「選手が7条に基づく通知を受けた後に、選手が2回目のアンチドーピング規則違反を行ったことをFINAが証明できた場合にのみ、アンチドーピング規則違反は別の違反とされる」とする方がしっくりいくのですが。。

「7条に基づく通知」は検体陽性の場合はAAF通知が該当します。

これらを前提にすれば、AAF通知を受ける前に選手が行った複数の違反はそれぞれ別の違反行為とはしないということかと思います。それでパネルは上記の判断をしたものと思われます。

次に、選手がAAF通知を受けた7月31日後に採取された検体4〜6に関する違反は、2回目の違反と扱われるのでしょうか。

パネルは、この点はFINAが検体4〜6が「別のアンチドーピング規則違反」であると立証できてていないとしました。

その理由は次のとおり。

  1. 検体4〜6の禁止物質は検体1〜3の禁止物質と同じである
  2. FIFAのドーピング審査委員会の医師2名およびWADA公認のラボの人によれば、複数の摂取を受けた否か最終的に決めることができないが、最初のAAF後にスタノゾロールを摂取したという明確な兆候はなかった、としたこと
  3. 医師の1人は最もあり得るシナリオは、1回のスタノゾロールの摂取から6検体陽性になったと思われる旨付言
  4. 8月3日以降暫定的資格停止になった選手が、競技に参加できないのに引き続き同じ禁止物質を使用することはありえないと思われること
  5. DC10.7.4.1の趣旨は、同じ違反から生じたAAFについて選手を2度処罰することを避けることにある
  6. FINAは本件について3回目の違反を主張していないこと

こうして6検体の陽性について1つの違反として扱うことになりました。

スタノゾロールは、非特定物質ですので、選手が体内侵入経路を特定して、意図的に摂取していないことを証明する必要がありますが、選手は尋問も証拠提出もしなかったようです。

ということで、2回目の違反としては最も重い8年間の資格停止となりました。

しかし、この短期間で集中的に抜き打ち検査が行われた理由が知りたいところです。

弁護士大橋卓生