パラマウント判決の終焉


ハリウッド黄金期といわる1930年台〜40年台ですが、その黄金期を支えた制度ーブロックブッキングや一律の料金設定、劇場への不透明なクリアランスなどやこれらを支える大手スタジオの映画館保有ーが反競争的として、司法省が反トラスト法(アメリカの独占禁止法)のメスを入れた時代でもありました。

その結果、当時最大手だったパラマウント・ピクチャーズの名称を冠したパラマウント判決が出され、映画館の保有が禁止されるなど映画興行ビジネスの変革を余儀なくされました。

70年超が経過した2020年、司法省はパラマウント判決の廃止を決定し、8月に裁判所はこれを認める決定を出しました。

興味深い決定でしたので、決定書を読んでみました。

■ パラマウント判決

対象となったのは、次の映画会社です。

Paramount Pictures
20th Century Fox
Leo’s/MGM
Warner Brothers
RKO Radio Pictures

以上の5社は、ビッグファイブと呼ばれ、 ハリウッドにスタジオを持ち、米国内で広く系列の映画館を保有していました。一社で製作・配給・興行を一貫して行う垂直統合をしていました。

Universal
Colombia Pictures
United Artists

以上の3社は、リトルスリーと呼ばれ、いずれも映画館を保有していませんが、UniveralとColombiaは製作・配給を、Unitedは配給を行っていました。

これは8社は、それぞれ1社だけでは、製作・配給・興行のいずれの部門も独占していませんでしたが、冒頭のような制度を作り、相互に補完することで最も利益の上がるロードーショー(封切館)を独占していました。要するにカルテル作っていました。

どのようなものだったかをもう少し具体的に説明します。

昔の映画はフィルムに記録されていました。このフィルムは高価なため、それほど多くはプリントできません。このために、都市部の封切館と言われる映画館でロードショーを行い、ここでの公開が終わると、2番館に分類される映画館で公開され、それが終わると3番館へ、という流れでフィルムを流通させていました。日本でも同様で、映画の配給制度と言われるものです。

ビッグファイブは、全米主要92都市で封切館の70%超を保有していました。この状態を利用して、8社のロードショーはこれらの映画館だけで行うこととして、他の映画館にはロードショーを行わせないようにしました。
このため、他の映画館は、上記8社の映画について最も利益のでるロードーショーから閉め出されることとなりました。

こうして、上記8社のカルテルを解体するため、連邦最高裁判所は、各社に対し、反トラスト法違反として次のような措置等を講じる同意判決(和解のようなもの)を出しました。

  • ビッグファイブについて興行部門の分離(映画館を独立した会社に売却すること)
  • 入場料の一律設定の禁止(配給会社が映画館に映画の上映を許諾する条件として入場料を取り決める)
  • ブロックブッキングの禁止(配給会社が映画館にまとまった数量の作品を一括して賃貸すること)
  • 不合理な権利クリアランスの禁止(ロードショーの上映終了と二番館での上映開始日との間に一定日数を空けたり、封切館の上映地域を過度に広範にすることなど)
  • サーキットディーリングの禁止(映画を系列の映画館に許諾すること)

■ パラマウント判決の終焉

裁判所は、次の理由からパラマウント判決を終了させることを支持しました。

当時の違法な状況が解消され、長い年月の経過とともに、映画産業の構造が変わっており、反トラスト法の規制の仕方も変わっているというのが主な理由です。

映画産業が様変わりした、というのは時代を感じます。

パラマウント判決当時は、映画は単一スクリーンの映画館で配給されることが前提で、主要都市の映画館を押さえることで、独占状態を作れたけれど、今日ではシネコンが主流で、全米で同時に何千ものスクリーンで公開されるようになった、としています。

インターネットの成長についても指摘されており、Netflix等の登場で映画は必ずしも映画館だけで封切りされるものではなくなり、配給事業者も映画館だけに頼らなくなったとし、ネットフリックスは、今年配信した50超の映画のほとんどは映画館で公開されたものではない、しています。

上記8社のうち、既に存在していない会社もあるし、MGMは1939年当時年間52本(「風と共にさりぬ」や「オズの魔法使い」など)も配給していたのに、2018年には3本しか配給していない、として少し黄昏れます。

これに対して、パラマウント判決とは関係ない映画会社が市場に参入しているとして、ディズニーやライオンズゲートなど勢いのある会社が数社指摘するとともに、インターネットストリーミングサービスを行うNetflix、アマゾン、アップル等も判決の対象でないことを指摘します。

独立系の映画館の団体などからはパラマウント判決の終了について反対意見が出ているようですが、裁判所は、法律制度も変わり、一定程度の会社の買収は事前に政府に通知が必要なり、そこで反トラスト法違反にあたりうるか判断できるよ、と。
また、この判決が終了するからといって、上記8社が過去と同じ行為をすれば、反トラスト法違反の問題は生じうるけれど、さっきも言ったように、シネコンが隆盛でテレビやインターネット、DVD等もある中、過去成立したカルテルの条件を欠くので、カルテル復活はないと思うよ、と。

一応そうした団体の懸念も踏まえて、ブロックブッキングとサーキットディーリングの禁止については2年間のサンセット期間(2年後に終了)を設けることとしています。

 

なかなか時代を感じる決定でした。

市場に新たな映画会社が参入したり、映画館以外にもライバルがいるというあたりの指摘で、司法省がパラマウント判決を終わりにする必要がある、とすることにとても腹落ちしました。
パラマウント判決を残すことは、現在残っている当事者に逆に足かせになっている、ということなのかなと思いました。

弁護士大橋卓生