スタンドアップパドルボードの行方:CAS2018/O/5830


マンCのFFP違反裁定に続いて、CASから興味深い裁定が出ています。

急成長しているStand-Up Paddleboard(SUP; スタンドアップパドルボード)というスポーツを巡って、どちらがこのスポーツを統括するかについて、国際サーフィン連盟(International Surfing Association; ISA)と国際カヌー連盟(International Canoe Association; ICF)とが争っていました。

ISAの主張によれば、もともとはハワイのサーファーが考案して広まったスポーツのようで、サーフィンの一種別と認識しているようです。

ICFの主張によれば、ICFが統括するスポーツの定義にパドルを使ったアクティビティも対象としているとのことです。

上はカヌー、下はサーフィンというなぞなぞの問題みたいなスポーツです。

■ 両団体のSUPへのかかわり(2008-2019)

2008 ISAがSUPをサーフィン種別の1つとしてガイドラインに記載
2009.1 ISAがSUPのテクニカルルールブックを作成し、ジュニア世界大会をエクアドルで開催
2012 ISAは、初の世界レベルの大会をペルーで開催。
その後、ISAは、2019まで毎年「世界選手権」を世界各国(ペルー、ニカラグア、メキシコ、フィジー、デンマーク、中国、エルサルバドル)で開催
2012〜2014 2012と2014にボリビアン・ビーチゲームスでSUPサーフとSUPレーシングを開催し、ISA国内連盟が選考した代表チームが参加
2013にボリビア競技大会でSUPを実施し、ISA国内連盟が選考したアスリートが参加
2015 ISAは、東京2020の正式競技としてサーフィンとSUPを提案(サーフィンのみ採用)
2016.5 ICFは、ドイツで開催された、有名な”The Lost Mills”でSUPを実施
2017 ニカラグアで開催された中央アメリカ競技大会でサーフィンと共にSUPが実施
ISAは、SUPのプロツアーを手がけるパドルサーフプロ連盟と提携
ICFは、SUPカヌーレース大会規則を制定
2019 ICFは、中国でSUP世界選手権の開催を発表
夏にパンアメリカ大会でサーフィンの1種別としてSUPを実施

ISAの方がSUPにがっつり絡んでいる感じで、ICFは後発的な感じです。

ところで、2018年7月30日に、ポルトガルのスポーツ仲裁裁判所は、国内で開催されるICFのSUP世界選手権について、ポルトルガル法の下では、SUPはポルトガルサーフ連盟が独占的に統括しており、国内SUPイベントは同連盟の責任で行うべきものとして、ICFやポルトガルカヌー連盟の関与を否定したようです。

■ 両団体の話し合い

2016年4月頃から両団体のトップがSUPの統括について協議を開始したようですが、なかなか結論に至りませんでした。スポーツアコードやIFフォーラムでの会議や書面のやりとりが続きました。

ISAは、ISAがSUPの世界的な統括団体であるが、ICFがSUP大会を行うことは問題ない、という立場。
これに対し、ICFは、海でやるSUPはISA、川や湖であるSUPはICFが統括する、あるいはICFはSUPを統括する団体の1つである、という立場。

2017年1月には、IOCが間に入って協議を行うことになりました。協議の進め方として、IOCは、①IOCが間に入って協議、②CAS調停(①でまとまらない場合)、③CAS仲裁(②でまとまらない場合)を提案し、両団体ともこの方針を了承しました。IOCは、上記の事項を含めMoUを作成していますが、両団体とも署名まではしていないようです。

①の協議は2017年1月16日に行われましたが、不調に終わりました。

そこで、2017年7月に②のCAS調停に移りましたが、2018年5月頃、最終的に不調となりました。

■ CAS仲裁

CAS仲裁で問題となったのは、いずれがSUPの統括団体か、ということですが、簡単そうでそうでもない問題です。
このニュースを聞いた際に、そもそもCASが決定すべき問題なのかと思ったところです。

仲裁判断に多くのページが割かれていたのは仲裁合意の存否です。

ISAが仲裁を申し立てたのに対し、ICFが仲裁合意を否定しました。
前提事実では、IOCの仲介により最終的にCAS仲裁によることを了承していたと思いますが、ISAの立てた請求(オリンピックを含む世界レベルでSUPの統括団体はどっちか)について、そのような仲裁を行うという合意はしていない、と反論しました。

争点としては、次のようか感じです。

1.仲裁合意の存否と認められる場合、仲裁の範囲
2.世界レベルでSUPを統括する団体はどっちか
3.オリンピックレベルでSUPを統括する団体はどっちか

  1. 仲裁合意の存否と認められる場合、仲裁の範囲

ここは裁定を読んでいてとても勉強になりました。

CASとICFはスイス・ローザンヌに主たる事務所を有するスイス法人ですが、ISAはアメリカ(ラホヤ/カリフォルニア州)に主たる事務所を有する米国法人です。

ISAとICFの仲裁合意は、スイス国際私法に基づく国際仲裁契約に該当し、同法によって判断されることになります。

パネルは、同法の具体的な条項を解釈適用して、最終的にCAS仲裁に付す旨のMoUは署名されていませんが、メールのやりとりなどから仲裁合意を認定しました。

仲裁の範囲ですが、パネルは、ここもスイス法を適用し、仲裁合意をした際の当事者の意思を認定し、国際レベル・オリンピックレベルにおけるSUPの統括について解決することにあるとしました。

  1. 世界レベルでSUPを統括する団体はどっちか

ISAは、”1スポーツ1連盟”を主張しました。

パネルは、スイス法を適用し、団体には団体自治が保障されていること等を指摘して、スイス法には、世界レベルでのSUPの統括について判断する規定がない、としました。
そもそも、この裁定は、当事者であるISAとICFだけを拘束し、第三者は拘束しません。

ISAの主張自体もオリンピック以外にSUPの独占を主張するものではありませんでしたので、世界レベルでSUPを統括できるとする根拠を十分に提出できていなかったようです。

スポーツそれ自体は誰のものでもないので、誰がやっても他人の権利を侵害するものではないと思います。ですので、ISAのSUPがあっても、ICFのSUPがあっても何の問題もないはずです。この結論は当たり前のように思います。

そうすると、ポルトガルのスポーツ仲裁裁判所が出した判断の根拠が気になりますね。

  1. オリンピックレベルでSUPを統括する団体はどっちか

IOCのオリンピック憲章にはIFの承認について規定があり、IF承認手続が定められていますし、1スポーツ1連盟も要請されていますので、オリンピックレベルでSUPの統括団体はどっちかを決めるルールは存在しています。

ただ、CASがそれをできるか、という問題があります。前述のとおり、この裁定は当事者であるISAとICFだけを拘束し、第三者は拘束しません。

こうしたことも踏まえて、パネルは、この問題を判断できるが、あくまで当事者であるISAとICFにのみ拘束力があるにすぎず、オリンピックレベルでSUP承認するものでも、オリンピックプログラムにSUPを含むとするものでも、IOC内でSUPを管理するIF連合としての対応する連盟のオリンピックムーブメント内でのあらゆる種類の公式承認を意味するものでもない、と留保を付けています。そうした承認はIOCの独占権であり、CASパネルはそうした管轄も権限も有しない、としています。

当事者間にのみ拘束力を有するという意味を明確にしました。

オリンピックレベルでSUPを統括する団体として判断された当事者のみが、IOCに対して当該スポーツの統括を申請し、IOC傘下で公式競技にSUPを組み入れやSUP大会を開催すること要請する等の権利を有する。そして、他の当事者はそうすることができない。
同時に、オリンピックレベルでSUPを統括していないと判断された当事者は、IOC傘下以外で、SUP大会等を開発し実施することは自由にできる。

オリンピックレベルでSUPを統括しているのはどっちかを決めるにあたっては、IOCのIF承認ルールが適用され、本件の判断に関する基準として、次の2点が示されました。

(i) “the only Federation governing the sport worldwide”
(ii) “Have existed in such capacity for at least five years”

統括の状況、歴史、普遍性(NF数等)、人口、アスリート(団体の意思決定への関与の程度)、スポーツの開発の要素を検討・比較し、ISAがより多く基準を満たすと判断しました。

結論として、オリンピックレベルでのSUPの統括団体はISAであるとされました。全会一致ではなく、過半数の決定ですので、1名の仲裁人は異議を述べたということになります。

 

ある競技をどの団体が統括団体となるかについて判断を示した貴重なCAS裁定と思います。

日本国内でも時折こうしたことが問題となっています。特に新しいスポーツにおいては統括団体を名乗る団体が複数出てきます(例えば数年前の国内のeスポーツなど)。

JOCやJSPO加盟には国内統括団体を1つにまとめることが必要となり、団体間の協議が促されます。ただ、JOCやJSPOには、IOCのIF承認手続で定められているような承認基準はないという記憶です。
今回のケースのように団体間で協議が整わない場合、解決する基準はありません。野球やゴルフのように各種団体の上位団体を1つ作ってまとめるという手法がとられる場合もあります。
1スポーツ1連盟とならないことで最終的に迷惑を被るのは選手です(過去のテコンドーの例など)。

さて、この仲裁判断後に、ICFの会長が出したコメントを見ますと、ISAのSUPの独占が認められなかったという判断を強調し、対IOCに関するパネル判断を批判しつつ、今後はICFとISAで共同してSUPを盛り上げていくような内容です。ただ、今回のCAS判断はIOCを拘束しないので、IOCはこの判断に縛られることなく最善の判断をして欲しい、とさらっと言っています。
これに対し、ISAの会長のコメントでは、ICFについては一切触れられていません。

弁護士大橋卓生