スポーツにおける脳震盪 Concussions in Sports


脳震盪の危険性

アメフト、ラグビー、柔道、格闘技などコンタクトスポーツでは、頭部への衝撃を受けることが多くあります。
このような頭部へ衝撃を受けたことによる死亡ないし重い後遺症が残る事故が多く発生しています。脳震盪は、頭部外傷の症状の中でも軽い方で、一過性の意識障害・記憶障害、とされています。

しかし、脳震盪が繰り返し起きることで、次のような、より重い症状を発症します。

  • セカンドインパクトシンドローム:最初の頭部への衝撃で脳振盪を起こし、その後、短期間に2度目の衝撃が加わることによって取り返しのつかない重篤な症状を引き起こす危険が生じます。致死率が50%以上とも言われています。
  • 慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy ; CTE):長期間にわたって、脳への衝撃が反復することにより脳が変性して、高次脳機能障害を引き起こし、攻撃性が増したり、錯乱や抑うつ状態などを引き起こす症状が出るとされています。ボクサーでいうパンチドランカーといわれる症状がこれにあたるようです。

アメリカでは・・

現在、アメリカのスポーツ界では、脳震盪が大きな問題となっており、訴訟でも争われています。


1 NFL(アメフト)

4500人を超えるNFL元選手やその家族らが、NFLを相手に提起した脳震盪訴訟ですが、昨年来、元選手らとNFL間で和解交渉が続いています。
NFLは、元選手らに対し、$870M(約930億円)もの補償金を払うことになるようです。
選手側の主張では、NFLは脳震盪のリスクを知りながら、安全措置を怠ってきたとされています。和解の過程ですので、NFLが責任を認めたか否かはわかりませんが、巨額の賠償金の負担が、その責任を物語っているように思われます。

2 NHL(アイスホッケー)

200人を超えるNHL元選手らが、NHLを相手に提起した脳震盪訴訟が、アメリカので進行中です。

3 NCAA(大学スポーツ)

NCAAは、アメリカの大学スポーツを統括する団体ですが、元学生選手らがNCAAを相手に脳震盪訴訟を複数提起しました。
これらの訴訟は1つに併合され、2014年9月末頃、NCAAが$70M(約75億円)を負担して、脳震盪と診断された選手のためのモニタリングなど各種プログラムを導入することとする和解が成立しました。

4 サッカー

2014年8月に、保護者らがFIFAやアメリカのサッカー競技団体を相手に、脳震盪に関するガイドラインやヘディングによる頭部への衝撃をできる限り緩和するための対策を講じるよう求めています。


2005年に、神経病理学者のベネット・オマル医師が、亡くなった元NFL選手の検死解剖をした際、慢性外傷性脳症(CTE)のてがかりを発見したことをきっかけに、スポーツにおける脳震盪の問題が注目されるようになりました。

ちなみに、NFLと脳震盪の問題に関する映画がハリウッドで企画されているようです。ベネット・オマル医師役は、ウィル・スミスだそうです。
NFLは、1994年にMild Traumatic Brain Injury Committeeを立ち上げ、Neurosurgery誌に、研究結果を発表していたようですが、その論調は、脳震盪の危険性は大きくない、というものだったようです。2005年のオマル医師の研究発表に対し、いかにNFLが抵抗したかは、確かに映画になるような話で、完成が楽しみです。

アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)、Concussions in Sportsのウェブページを設け、スポーツにおける外傷性脳損傷に関する研究結果や情報提供を行っています。

日本では・・・

過去に頭部外傷に起因するスポーツ事故が起きており、裁判例も多数存在しています。
名古屋大学大学院の内田良准教授によれば、日本スポーツ振興センターに報告された学校管理下の柔道事故での死亡事例は、1983年〜2011年までの29年間で118名に上るようです。その原因をみますと、頭部外傷(急性硬膜下血腫など)が多数に上っています。

2013年には日本脳神経外科学会が「スポーツによる脳損傷を予防するための提言」を公表し、注意喚起を促しています。

スポーツで脳震盪が起きた場合の対応は・・・

日本脳神経外科学会の上記提言によれば、脳震盪が起きた場合は、試合や練習への参加を停止し、脳震盪の症状が完全に消失してから徐々に復帰していく、ということです。

簡単なことのように見えますが、脳震盪は、多くの場合、意識消失はせず、頭痛、めまい、ふらつき程度の症状のようですので、本人も周囲も脳震盪の自覚・認識がないまま、プレーを続けてしまうおそれがあります。

スポーツにおける脳震盪に関する国際会議において、脳震盪の客観的な評価ツール(Sport Concussion Assessment Tool : SCAT)が公表され、日本語訳版も出ています。
これを簡易化したポケットSCATもあり、現場の指導者が携行できるように、SCATのポイントが簡潔にまとめられています。

また、フィールドのサイドラインで簡単に脳震盪のチェックができるKing-Devick Test(KDテスト)が開発されています。日本では、日本アイスホッケー連盟において活用されています。

スポーツにおける脳震盪の問題は、国際レベルで大きな問題として扱われています。
コンタクトスポーツに限らず、野球や自転車など他のスポーツでも生じている事故です。

SCATに基づく対応がスポーツ界の標準となっていくものと思われますので、対応を怠っていた場合、賠償責任を負うおそれも出てくるものと思います。

何より安全にスポーツを行うために、脳震盪の問題は、スポーツに関わる皆様が知っておくべき知識だと思います。

弁護士 大橋卓生

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