Ed Sheeran楽曲著作権侵害訴訟 − Blurred Line事件の衝撃再びか? –


英国のシンガーソングライターEd Sheeranが、彼の楽曲”Thinking Out Loud“(58回グラミー賞で最優秀楽曲賞)がMarvin Gayの楽曲”Let’s Get It On“の著作権を侵害しているとして訴えられています。

Ed SheeranといえばMartinのミニギターを使っていて、同じギターを使っている者としては親近感があります(^^ゞ

Marvin Gayの楽曲の著作権侵害訴訟といえば、昨年、音楽業界を揺るがしたBlurred Line事件が有名です。

Robin ThickeとPharrel Williamsの2013年の大ヒットソング”Blurred Line” が、Marvin Gayの楽曲”Got To Give It Up“の著作権を侵害したとしてGayの遺族(財団)が提訴しました。

音楽の三要素とされるメロディ、リズムとハーモニー、そして歌詞は異なるものですが、陪審員は盗作と認定し、控訴審の裁判官もこれを支持しました。

Robin ThickeとPharrel Williamsは、Gayの遺族に対し、約500万ドル(約5億4000万円)を支払うこととなりました。

音楽業界では、この判断について、楽曲のグルーヴが似ているということで著作権侵害となるのであれば、今後の創作活動に大きな影響を及ぼす、と危惧されています。

音楽をはじめ著作物は、過去の作品にインスパイアされて創作されることは多いと思います。オマージュやリスペクトという形で過去作品を踏まえて創作されることも行われています。

モー娘。の大ヒット曲”Loveマシーン“は、Shocking Blueの”Venus“(Bananaramaのカバーの方が有名)にインスパイアされて創作されたものと思われますが、これが著作権侵害となるというようなイメージではないかと思います。

Gayの”Let’s Get It On”は、作者がGayではなく、Ed Townsendという方で、既に亡くなられているので、その遺族が提訴したものです。この訴訟は、陪審員の判断に委ねられることになったようです。ちなみに遺族の請求額は、100Mドル(約108億円)だそう。

“Let’s Get It On”と”Thinking Out Loud”を聞き比べた個人的な感想としては、”Got To Give It Up”と”Blurred Line”よりも似ている印象を持ちました。

ここで思い出したのが、同じく英国のシンガーソングライターで57回グラミー賞の4部門を受賞したSam Smiithの”Stay With Me“事件です。グラミー賞の直前に、ロック界の大御所Tom PettyとJeff Lynneから彼らの楽曲”I Won’t Back Down“に似ていると指摘があり、彼らを共作者とすることで解決した事案です。

これらに共通しているのは、作風の類似ということではないでしょうか。基本的なリフやコード進行・ベースライン・ドラム、使用する楽器の音色、グルーヴ感といったところがどこまで著作権で保護されるかは難しいところです。

米国の音楽著作権訴訟は、このほかに著名なものとしてGeroge Harrisonの”My Sweet Lord”事件(Harrison敗訴)やLed Zeppelinの”Stairway to Heaven”(Led Zepp勝訴)などがありますが、著作権侵害か否かの明確な基準はみえてきません(最終的には陪審員の判断になるということも大きな要因と思われます)。

日本では楽曲の著作権侵害訴訟はごくわずかですが、大々的に争われた事件としては記念樹事件(東京地裁H12.2.18、東京高裁H14.9.6)があります。

服部克久さん作曲の”記念樹“が、小林亜星さん作曲のCMソング”どこまでもいこう“の著作権を侵害したとして大作曲家同士が争った事案です。

一審と二審とでは、結論と判断方法が異なりましたが、二審では小林亜星さん勝訴で終わっています。二審の判断方法は、”どこまでもいこう”の表現上の本質的特徴を、CMソングであることから、簡素で親しみやすいメロディーと認定したうえで、メロデイの類否(何パーセント合致するか)を中心に判断し、ハーモニーやリズムはサブの要素として位置づけて判断しています。

果たして記念樹事件二審の判断が適切なのか疑問がないわけではありません。米国のようなグルーブ感など含めれば似てないという判断にもなろうかと思います。

ただ、米国のように音楽の三要素に重きを置かずにフィーリングで類否を判断するやり方は、著作権法を踏まえない一般的な感覚と合致するのかもしれませんが、著作権法から考えていくとどこに創作的な表現を認めるのかあいまいなように思います。

ところで、Ed Sheeranは、別な楽曲”Photograph“がMatt Cardleの楽曲”Amazing“に依拠して創作されたものとして、”Amazing”の作者が提訴されていた著作権侵害訴訟で敗訴して、共作となってしまうという事件もありました。

ロックなどポピュラー音楽の基本的なリフやコード進行などは過去の作品に依拠しているものは多々あり、そうしたところが感覚的に似ているというところで著作権侵害の成否を決めてしまうのは、どうかと思う今日この頃です。

弁護士大橋卓生