「マリカー」判決


マリオカートは、スーファミ、DS、Wiiでやってきましたが、マリカーと呼んだことはないので、果たして「マリカー」の周知性が認定されるのだろうかと思っていましたが、認定されましたね。

この事件は、いろいろな争点があってとても興味深いのですが、もっとも興味をもった点は、①任天堂が使用していない略称が周知表示と認められたこと、②著作権の判断、です。

①略称の周知表示認定について

今回の判決で、任天堂は、「マリカー」について不正競争防止法
2条1項1号・2号の不正競争行為に該当すると主張し、裁判所は1号を認定していますので、「マリカー」は著名とまでの認定は得られなかったようです。

裁判所は、「マリカー」について、不正競争防止法2項1項1号の周知表示として認定しています。

周知表示と著名表示の違いは、著名表示が全国的に誰でも知っているレベルのものであるのに対し、周知性は需用者の間に広く認識されているものであればよいとされています。

そこで、まず、被告会社が「マリカー」を使用して提供していたサービスの需用者は誰か、が争点になりました。

街中でみかける光景からすれば、外国人観光客のような気がします。

しかしながら、判決では、被告会社のウェブサイトは、外国語(英語・中国語・フランス語・韓国語)だけではなく、日本語もあり、宣伝文句や勧誘文章も日本語で掲載されていました。同様に、チラシやアンケート用紙も日英両言語で記載されていました。
さらに、旅行サイトにおいても、日本語で東京観光の一体験として日本語で紹介されていました。
こうした事実を踏まえて、裁判所は、需用者を「観光の体験等として公道カートを運転してみたい一般人であり、海外から日本を訪れる者と日本国内に住んでいる者が含まれ、日本語を解しない者も含まれるが、日本語を解する者も当然に含まれる」としました。

そのうえで、「マリカー」がこうした需用者に広く認識されていたかを判断します。

まず、マリオカートが商品等表示としてソフトのパッケージやライセンス商品に用いられたり、地上波テレビのCMで多数放映されたりしたことを認定しています。

そのうえで、マリカーの略称について・・・

  • 平成8年12月にゲーム雑誌で「マリオカート」の略称として「マリカー」が用いられて以降、多数の雑誌で略称が用いられたこと
  • 漫画(3作)の中で、何ら注釈をつけることなく「マリカー」が用いられたこと
  • Twitterで、被告会社が設立される前日、「マリカー」を「マリオカート」の略称として用いるツイートが600以上投稿されたり、新作発売発表時に同様のツイートが約3000に上ったこと
  • テレビ番組で被告会社を取材したタレントが「マリカーやった?」と発言したことなど

ということで、「マリカー」は「マリオカート」の略称として遅くとも平成22年頃には、前記の需用者に広く知れ渡っていた、と。

「マリカー」は日本語なので、対外国人との関係ではどうかというと「『マリカー』の略称は、日本語を解しない者の間では、任天堂の商品等表示として広く知られていたとはいえない」とのこと。

この関係で、被告会社が使用していた「MariCar」等の英語表示が「マリカー」と類似するかが問題となります。

商標や商品等表示の類似性は、基本的に、外観(見た目)・称呼(呼び方)・観念(イメージ)が同一かどうかで判断します。

「マリカー」と「MariCar」えは、外観が相違するが、称呼が同一といえるところまでは容易に理解できます。

さて問題は観念です。
日本語の「マリカー」は「マリオカート」の略称ですので、これをイメージします。
英語の「MariCar」もマリオカートをイメージするでしょうか。
この点、判決は、Carは車を意味する単語であるから、全体として「マリ」と「車」を結合したものとイメージする。マリオカートがよく知られていることから、「マリ」はマリオをイメージさせ、「車」はカートをイメージさせることから、観念も類似する、として「MariCar」などの英語表示も「マリカー」類似と認めました。

②著作権の判断

任天堂は、マリオ・ルイージ・ヨッシー・クッパの各キャラクターの著作権侵害(複製・翻案)に基づく差止を求めていますが、裁判所は、判断を回避した印象です。

この訴訟提起時に、著作権の判断について何人かの弁護士さんが著作権侵害はハードルが高いというコメントを出していました。

それは、被告会社は、各キャラクターのコスプレ衣装を使用していたことに原因があります。マリオやルイージについていえば、キャラクターの顔の部分は、コスプレ衣装では利用者の顔を出すためにくり抜きになっており、ゲーム中のマリオやルイージの顔は表現されていません。
そうすると、キャラクターの衣装の部分に関して著作権が成立するか、という話です。
マリオ・ルイージともにオーバーオール・赤or緑色シャツ・帽子(それぞれのイニシャル入り)と表現が簡素ですので、創作性が認められるかが微妙なところと思います。

これに対して、ヨッシーやクッパはコスプレ衣装にもゲーム中のヨッシーやクッパの顔が表現されているので、著作権侵害の認定はしやすいかと思います。

ただ、ヨッシーやクッパを著作権侵害としてマリオ・ルイージはセーフとするのは、何か落ち着きどころが悪いと思います。

任天堂は、各キャラクターについて「マリカー」と同じく、商品等表示として不正競争防止法2条1項1号・2号の主張をし、コスプレ衣装の使用差止を求めていました。

不正競争防止法上の商品等表示の類似判断と著作権の類似判断は異なります。

著作権の類似判断は、創作性ある部分が利用されているか否かなのですが、周知表示の類似判断は、他人の商品や営業と誤認するか否かです。

裁判所は、マリオ・ルイージ・ヨッシー・クッパが任天堂の営業等を表示する識別標識として周知表示となっていることを認定したうえで、被告会社のコスプレ衣装は、マリオ・ルイージ・ヨッシー・クッパの特徴が任天堂の周知表示であるマリオ・ルイージ・ヨッシー・クッパに類似すると認定しています。
これらは、外国人にも周知としています。

こんな感じで、不正競争防止法上でコスプレ衣装の差止を認め、任天堂が得ようとしていた結果が出たので、著作権については判断しない、という感じです。

知財も重要ですが・・・

車は運転しないのですが、タクシーに乗ったりしてマリカー軍団に出くわすと、見ていてとても危なっかしく思います。公道における規制は、2020年にならないと実現しないようです。

弁護士大橋卓生