日大悪質タックル問題を考える


はじめに
アメリカフットボールやラグビー、格闘技など激しい身体的接触のあるスポーツは、身体的接触によって他の選手に怪我をさせてしまうこともあります。時には、重大な後遺症が残る怪我をしたり、死に至ってしまうような事故に発展することもあるでしょう。
スポーツ事故で他人に怪我をさせてしまった場合や、死亡させてしまった場合には、民事上、刑事上の責任を問われる可能性もあります。

日大悪質タックル事件の概要
平成30年5月6日、日本大学と関西学院大学のアメリカンフットボールの定期戦が開催されました。その試合中、日本大学のディフェンスラインの選手が、関西学院大学のクォーターバックの選手に対して背後からタックルしたプレーが問題となっています。クォーターバックの選手がパスを出してから2秒後のことでした。非常に危険なプレーであることは素人目にも一目瞭然です。タックルを受けた選手は退場し、右膝軟骨損傷等全治3週間の怪我を負ったとのことです。
関西学院大学アメフト部は、試合後、日本大学アメフト部に対し、抗議するとともにプレーに対する見解、謝罪を求める文書を、期限を5月16日と設定して送付しました。
日本大学アメフト部は、5月15日に回答書を提出しましたが、問題のプレーが起きた要因については、「指導者による指導と選手の受け取り方に乖離(かいり)が起きていたことが問題の本質」とコメントしたのみで、具体的にはよく分からないと言わざるを得ません。回答書を受けて、関西学院大学アメフト部は、5月24日までに改めてプレーに関して日本大学アメフト部が把握する事実、当該プレーに至った経緯、それまでの指導内容、試合後の対応等を具体的に回答するよう求めました。(5月18日時点)
日本大学アメフト部が加盟する(一社)関東学生アメリカンフットボール連盟は、5月10日のリリースで、問題のプレーが公式規則上の「ひどいパーソナルファウル」として同連盟による追加的な制裁が必要な場合にあたると判断したこと、本件について規律委員会を設置し、詳細な調査を行った上で最終的な対応を決定すること等を発表しました。5月16日のリリースでは、同日時点で調査中であるとの中間発表もなされています。

スポーツ事故における違法性阻却(サッカーファウル事件を題材に)
スポーツ中の事故においては、民事上・刑事上の責任の前提となる違法性が阻却されることがあります。つまり、スポーツには生命・身体を損傷する事故の危険性が内在しており、スポーツ活動中の事故については正当行為・社会的に相当な範囲といえる行為については違法性が否定(阻却)されることがあります。
違法性が否定(阻却)されなかった比較的最近の事例としては、サッカーの試合においてボールを左足で蹴ろうとしたところ、左足のすねに他の選手の足の裏が接触し、ボールを蹴ろうとした選手が左下腿脛骨及び左下腿腓骨骨折の傷害を負い、接触した相手の選手を訴えたサッカーファウル事件(東京地方裁判所平成28年12月26日。控訴審で和解)があります。裁判所は、プレーは過失によるものだとしつつ、反則行為のうち退場処分が科されるということも考えられる行為であったと評価でき、骨折により入院手術を余儀なくされるような傷害を負うことは、常識的に考えて、競技中に通常生じうる傷害結果とは到底認められないものであるとして、違法性は阻却されないと判断しました。
このように、スポーツ中の事故であっても、違法性が阻却されないことはあり得ます。

故意のルール違反と刑事責任
また、選手が故意にルール違反をして他の選手に怪我をさせたり、また監督がそれを指示していた場合には、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)等に問われることがあり得ます。
例えば、過去に、NFLのセインツにおいて、試合で相手選手を負傷させた場合、負傷の程度に応じて賞金を出すというシステムが取られていたことが発覚し、大問題となったことがありました。この事例を日本の刑法に当てはめてみると、相手選手を負傷させた選手と、そのように仕向けたコーチ等は、傷害罪の共同正犯(刑法204条、刑法60条)に問われ得るのです。

終わりに
今回、どのような経緯で日大の選手が悪質タックルをするに至ったのか、その原因はまだ解明されていません。
今回のタックルをした選手やチーム関係者が民事上、刑事上の責任を問われうるか、という検討については、以上みてきた解説を踏まえ、その可能性は十分にある、という程度にとどめておきます。
そのスポーツの危険性が、内在している危険以上のものであると誤認された場合、そのスポーツは回避され、取り組む人口が減り、そのスポーツの発展が阻害されることにつながりかねません。このような事態を避けるため、今回のような悪質なタックルがなされた原因(なぜ今回のような事案が生じたのか)を早期に解明する必要があるでしょう。

弁護士 多賀啓